2017/02/18

「逃げ恥」、修善寺、オグリキャップ

こちらの日本語 TV でいま、「逃げるは恥だが役に立つ」を毎週やっている。ヒラマサくんとみくりさんは実にかわいらしい。これまで星野源は LIFE おもえもんがベストアクトだと思ってたのだが(笑)、4話でみくりが風見さんとのシェアを請け負ったことで傷つくヒラマサの悲しき平静顔、絶望のベッドへたり込み、そしてみくりさん奇跡の恋愛オファーを受け逆転アタフタ二倍速などで心掴まれました。



今日は第6回温泉社員旅行の巻。このドラマって日本を旅したくなるな。山梨ぶどう狩りのときもそうだったし、揺られていく電車のバックでかかる「そうだ京都へ行こう」の音楽とかもう、胸が痛いほどなつかしい。ついたところも見覚えがありどこかと思ったら、あの橋は修善寺だ。私も昔バイクで行きました。

ヒラマサといる平和を愛すことは、彼を愛すことと一緒。しかしみくりが伸ばす指先から彼は逃げていく。帰りの電車で涙を拭うみくりにもらい泣きしそうになっていると、ヒラマサお前! よし(笑)。みくりの気持ちはわかってないけど、好ましくてたまらない彼女に吸い寄せられる手のひらと唇。



修善寺の裏のだるま山にすばらしいクネクネ道とキャンプ場があって、そこにテントを張って俺と弟はバイクの練習をしていた。美しく速く走ろうと一日中練習して、夕方修善寺に降りて公共浴場でお湯を使わせてもらい、スーパーでレトルト食品などを仕入れてキャンプ場へ戻りつましい夜を過ごす。ストイックなバイク者たちでした。

ある年俺は落ち込むことがあって一人でだるま山キャンプに行き、めそめそクヨクヨと相変わらずバイクの練習をしていた。もう東京になんて戻る気がしないと思っていたが、週末は安田記念だった。オグリキャップが半年ぶりに走る。そうだオグリキャップに会いに行こう。

テントをたたみ府中へ向かい、復帰戦でいきなりコースレコード勝ちというオグリキャップの素晴らしすぎる走りに立ち会って、ボロボロ涙が出ました。すごいよお前すごすぎる。なんてすごいんだオグリキャップ。

オグリキャップというのはこうしてその走りで人を感動させた馬で、先週やってた NHK「プロフェッショナル」のオグリキャップ特集はそこをぜんぜん見せてくれていなかった。血統の差を覆すとか、そんなこと馬が考えてるわけないじゃん。彼はとにかく誰よりも速く走りたかっただけだろう。


彼の最後の有馬記念にも俺はいました。パドックからレース後まで、誰もがオグリ・オグリと声をかけ涙をこぼしていた。レース後やっと涙が止まった俺と相棒のタケちゃんは、いやはや、まさかね、すごいねと呆けたようになりながら、駅に続く長い道をニコニコ顔で歩きました。

NHK「プロフェッショナル」はあの有馬記念の映像をフジテレビから借りて流してくれたのだけが、オグリキャップに胸踊らせた頃を蘇らせてくれた。『オグリ一着! オグリ一着! オグリ一着! オグリ一着!』。スポーツは競技者の姿と見る者の気持ちが交錯してエモーションが爆発する。記憶に残るのは彼の走りと、それを語るアナウンサーの言葉だけなのだ。


オグリキャップが救ったもの

(1990/12/25)

 12月23日、グランプリ。船橋法典の駅に降りたっても僕の胸は少しも浮かなかった。どうしようか。いったいどうしたらいいのか、明日から。いつかそればかりを僕はくりかえし、それ以外のことに気持ちは向かわないのだ。

 寝ても覚めてもうつつにも。どうしてこんなに考えてしまうのか、オグリキャップのことを。新聞は書きたてている、駄目でしょう無理でしょう終わりでしょう。

 いつでもオグリに気持ちを傾けていた、わが愛する〈競馬探偵〉高橋源一郎氏はレース予想で、オグリキャップへのお別れにこんなしるしをつけていた。「ラブ」。--------ああ、僕たちの願いは、この祈りは、いったいどこへ昇っていくのだろう。



 そして・そして・そして。なんということなのでしょうか。



 オグリキャップが救ったものはラブだ。ラブ・ラブ・ラブ。オグリキャップが甦らせたのは善・美・祝福、奇跡を愛する心。祈り・ジャスティス・感謝輝き。情熱勇気に未知不思議、喜び笑いにクリスマス。オグリ・オグリ・オグリキャップ、メシアが再び。

 お前が救いつないだ信じることの喜びこそが、僕たちをここに集まらせている。オグリキャップ、お前が去ったあとからも。お前の奇跡はこの国を照らし続けることでしょう。僕はこの素晴らしいゲームを来年も、再来年も、ずっと、見続けていよう。

 表彰が終わり、全てが終わり、僕はスタンドを振り仰いだ。百億円の豪華スタンドよりも輝ける僕たちのハピネス。そしてどこかにいるはずの競馬探偵氏にむかって僕はラブとつぶやき、おおきく一度手を振った。



 翌朝、新聞に〈競馬探偵〉氏の名を探した。僕はあのとき、あなたのことを考えました。

 『何か大きい声で叫んだような気もします。彼の名前を呼んだのでしょうか。わかりません。

わたしは胸の中の大きな塊を吐き出していました。目の前がぼやけて、足元がぐらついていました。帽子を振ってたら、飛んでいっちゃいました。息が苦しくなりました。

神様、彼に勝たしてやって下さい。お願いです。それぐらい当然です。そうでなくちゃいけない。神様、あんたにはいつもひどい目に会わされてる。でも、いい。許してやる。だから、彼に勝たせろ。ほら、ゴールだ!』


 駅のスタンドで、僕は動けなくなってしまった。
 さようなら、オグリキャップ。

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