2026/10/15

【まとめ26年6月】日本サッカー最大の試金石:【W杯】ブラジル戦

 「帰国翌日の心地よさ」「銀河の一票は推進力を欠く」「2015なでしこの思い出」「『将軍』の村とダンスガールズ」ほか 

■6月13日                 帰国翌日の心地よさ



イギリス時間の朝3時、3週間もの長期英国旅行から無事帰宅。環境の変化で神経質になるピカが「あまりご飯を食べてくれない」と留守中娘が心配してたのだが、俺の帰宅もまた変化なので一瞬パニックになり隠れて、しばらくしてやっと出てきて落ち着いた。

低マグネシウム健康ドライフードを食べ残す好き嫌い問題が起きており、そのせいで夜中に腹が減り俺を起こしに来る。 「ねーお腹すいたー。ご飯マダー?」という感じ。いいから寝ろ。

旅行から帰国翌日の心地よさよ。たまった洗濯ものをどさっと洗い、自宅のうまくて実質無料のコーヒーを楽しみ(イギリスの泡立つコーヒーは好かなかったし4£800円は異常!)、空のトランクを陰干しし、写真を整理する。どんどんスッキリしていく。There's no place like home.

3週間ぶりの地元BCは夏になっており、今日は28度まで上がった。ドライで熱い風が吹く夏のBC、旅の洗濯物がすぐ乾く。

■6月15日              強豪との対戦が楽しい日本サッカー

旅行中日本のTVは見てなかったので、帰国後NHKをつけW杯テーマソングが米津玄師と知る。とことんパーソナルな彼の音楽にはスポーツ感も熱狂も、集団で盛り上がる感すらないよねw 

【ワールドカップ】日本・オランダ戦は面白い白い試合だった。オランダといえば本田・大久保・松井がシャカリキに走りながらもスナイデルのズドンにやられたあの試合を思い出すが、戦い方はずいぶん変わったものだ。フィジカルでは劣っても、技ではピッチ上のどこでも負けない前提で戦えている。あとはアイデアと技術の勝負。強豪との対戦で日本らしさを楽しめるという、ついにここまで来たなあと実感する。

Jリーグが勢いないのが残念だ。予選を見てないからメンバーの評価はできないが、中盤は日本がいつも自慢としてきた歴代代表MFほど巧くはない。しかし海外中堅チームのレギュラーとして日々戦っている彼らには、オランダ相手にも平常心という無形の遺産が宿っているわけだろう。

■6月16日             銀河の一票は推進力を欠く

#銀河の一票 序盤は政治家の裏事情や選挙運動ってこんなに複雑で複合的なものなのかと興味深かったが、回を追うごとに推進力を感じなくなってきた。政治家月岡あかりが、ありきたりなのだ。

彼女の気づきも、チームがやりたいことも、過去のリベラル系都知事候補(全員大敗)と変わりない。月岡あかりの動機・政策・言葉のどこにも、負け続けている現実の政治家以上のものを感じられず、感動できないのだ。現実政治を観察している人間には、現実のほうが現実だから感動的なのである。

あかりのどこがどうよくて日山流星の票をさらえるのだろうと不安だ。あるいはそういう結果には向かってないのだろうか。

■6月19日            こち亀は心の故郷

#こち亀 はいいマンガだなあ。長年カナダに住んでるんですが、タイに住んでたイトコがバンコクで購入し集めていた『こち亀』を、帰国時に私の元へとドーンと送ってくれました。『こち亀』には日本カルチャーのすべてが詰まっている、心の故郷。イングランドにはあらゆる面で卓越した歴史があるが、日本にはこち亀がある。

秋本先生、二眼レフも相当お好きだったと見える pic.x.com/u6yAEJ28TB

■6月19日              カナダのW杯初勝利

【ワールドカップ】カナダvsカタール。すごい、バンクーバーのBCプレイスが満員で真っ赤だ。MLSの試合じゃ上段はクローズドだし、俺と家族が見に行った2015年女子W杯ではカナダユニなんて着てる人も珍しかったんで、この光景は初めてだ。ここは攻め急がず確実に勝ってほしい。 

ハーフ。11人でこもる相手を押し込む単調な試合となっている。カナダ念願のワールドカップ初勝利がやってきそうではあるが、それがこんなヘボ試合では感動も薄そうだ。 俺が愛した前主将ハッチソンがスタジオにいる。彼は強敵相手に中盤で闘ういい選手だった。そういう選手は今いるのだろうか。

結局相手が耐えきれず6-0の駄試合になってしまった。カタールはもっといい試合にしてほしかった。カナダのワールドカップ初出場から苦節40年での初栄誉がこんな反復シュート練習のような、FIFAのW杯拡大の失敗見本のような試合では、カナダのオールドサッカーファンが気の毒である。大怪我も出てしまったし。 

しかし試合があったBCプレイス前を娘が通勤で通ると、試合後の町はフェスティブでハッピーだったそう。相手が引きすぎてつまらない試合になりカナダ気の毒だなと俺は思ってたんだけど、問題なく盛り上がっていたのね🙂

   ◇    ◇    ◇

■6月19日              2015なでしこの思い出

うちの娘は2015年女子ワールドカップのBCプレイスで、なでしこジャパンをそれはもう熱烈に応援していた。今年も日本を応援している。移民の子らには「両親や祖父母の祖国への愛着や誇り」があるんだと思う。

ブログ2015/07/05 【女子ワールドカップ】決勝:さようならチャンピオンたち ◆パブリックビューで観戦。耳をつんざくU-S-A! U-S-A! 大合唱が半端ではなかった。 tomosakata.blogspot.com/2015/07/blog-p… 

 

「試合が終わり会場を後にする。なにか食べようか。食べたくないか。いやあの試合開始4失点がなければいい試合だったよね。あそこから2点返すなんて…と俺は話しかけるのだが、彼女はまた涙にくれていた。さようならチャンピオンたち。」




■6月19日              俺のひいきのインボムくん

メキシコvs韓国。拮抗した好ゲーム。バンクーバーで1年強プレイし、俺が好きだった韓国のピルロ、ファン・インボムが今年も6番だ。今はフェイエノールトの10番なんだそうだ。俺がバ軍で見た最高のMFだったもんなー。 チェコ戦は彼の1G1Aで勝ったのか! すごいな俺のインボム🙂 

メキシコvs韓国。韓国が華麗に長時間キープしブーイングが起きている。韓国強いな。 バンクーバーではしかし、ファン・インボムが違いを見せてもチームは連動しなかった。俺がMLSを見なくなったのは、彼のように中盤で時間の流れを変えられる創造的選手が活躍する余地がないと思ったからである。

今はバンクーバーは強くなったが、奪ったら早く前に運び相手が整う前に攻めきるというMLS標準に適応できたからであって、MFが中盤巧技でタメを作るというサッカーではなくなっている。MLSは要はどこのチームも同じサッカーをやっている。

夕方散歩に出ると、めっちゃ真剣にシュート練習してる高校くらいの女子がいた。うまい。 「#ワールドカップ 見てんの?!」「Yeah!」。うちの町の高校からもカナダ代表選手は出てるので、頑張ってほしい。

■6月21日            日本サッカーの格が上がっている

【ワールドカップ】日本vsチュニジア。今日からカナダTSNで。 「日本が大幅に有利(heavy favorite)と予想されていますね」「もともと優秀なチームですが、オランダがスウェーデンを粉砕したあとはさらにオッズが下がりましたね」。TSNでこんな風に強豪扱いされることは初めてな感じ🙂

日本大勝後のカナダ解説。「これは日本にとって記念すべき勝利でしょう。W杯に本命として臨み、本命として勝ち上がるという難事をやってのけたのです」。たしかにこれまでは、史上最強のドリームチームとして入っては、惜敗の繰り返しだったもんね。

「ワールドクラスがいないのに強い」というのが今の代表を見ていて感じるところで、チュニジアは1対1のデュエルなら勝てるのにと感じながらやられ続けていただろうと思う。森保日本は選手間のリンクが破れそうで破れない不思議なチームだ。

■6月22日               感動的なイラン

【#ワールドカップ 】ベルギーvsイラン。イランのサッカーが感動的だった。大会おそらく最高のパスフローを持ちあらゆる角度から決定機を作れるベルギーを相手に、体を寄せ脚を出し体を投げ出しシュートを止め、奪うと必ず反撃する。不屈。

ベルギーvsイラン。後半デ・ブライネの才気が作ったこの完璧な決定機では、ベルギー3人がなだれ込み、イラン4人が体を投げ出し抑えきった。 英国アナが「完全に入っているべき流れでした! マグニフィセント・イランが止めたのです!」と最上位の敬意を言葉に込めていた。じーん! 

日本も心熱くなるそういう試合をし、しかし結局20年以上負け続けて、今日があるんだよね。

マンガ「Jドリーム」の『あとがき』に感動した。作者はジョホールバルにいたんだ。あの週鹿島アントラーズはヒュンダイとのACLで韓国におり、俺は英語(AFC公用語)通訳として帯同していた。日本代表の動向を伝える日本のスポーツ新聞がチーム内で回覧されていた。そして鹿島が勝利し帰国した日の夜、息が苦しくなるほどの試合で、日本はイランに勝ったのである。 

Jドリーム(完全燃焼編)はこの後書きを読むだけでも価値がある。この20pにも持たない分量でなぜ日本のサッカーファンを熱くさせるのか? note.com/tanabe54/n/n4c… pic.x.com/TD6nd4Q2I2

■6月28日              「将軍」の村とダンスガールズ




【サタデー散歩】2つ隣の入江の町、ポートムーディを歩いた。「将軍」part 2のセットが見事にできていた。今度のはすごいな。壮大な武家屋敷ができている。なに家の家紋? #Shogun2 pic.x.com/qMpe26jX0K

巨大な南蛮船もあった。「中を見せてよ」と奥様が警備員に声をかけるが、「頼んできたのはあんたで1000人目だよ」と笑って断られた。 前回俺と娘が見に来たときは「将軍」放送前だったんで警備員なんていなかったんだけど、大ヒット後は違うなw #Shogun2 

ポートムーディではちょうどなにかお祭りをやっていた。音曲に誘われステージに向かうと、フレンチカンカンのグループが踊っている。これってフラみたいに、様々な年齢の奥様がたが趣味で踊るものなのねw カメラを向けると皆うれしげに反応してくれ、soキュート🙂 


カメラはOLYMPUS EM10mk2にLUMIX 14140mm。14140mmがあれば英国旅行は持ってくレンズを大幅に減らせたと思い、そのテストもやってみた。


やっぱり写りがいいわこのレンズ。近くも遠くもよく写る。次の旅はこれをベースに、魚眼と明るい単焦点を持っていこう。 

【日本vsブラジル】実は日本代表の試合をこれほどワクワクと待つのは久しぶり。大久保がいた時代以来だ。大久保たちは世界のトップに食い下がり、一矢報いてやるという気持ちになれる選手たちだった。 今回は日本のていねいさ、新幹線&コンビニ的クオリティが世界に通用するのかという試合だと思う。

90年代の対戦時に小野たちにやられたカナダ代表キャプテンDFデヴォスが、試合前語る。「日本には無数のブラジル選手とブラジルコーチがいた。ゆえに選手たちはボール扱いは最高にうまい。そこに最高度の規律と組織とフィットネスを組み合わせたチームとなっている。勝ち抜く強さには誰もが懐疑的だが、今日が本当の意味でのテストなんです」。その通りだな。

  ◇      ◇      ◇

【試合後】日本のコンビニ的ていねいサッカーは、前半は期待以上に機能していた。ボックス内の敵の足技には全集中して食らいつく。日本のコンパクト陣形に攻め手をなくしたブラジルが放り込むとGK鈴木がキャッチするというライン設定が絶妙で、カナダ解説もブラジルはハメられていると評。 

しかし後半ブラジルが修正し圧とテンポを上げてくるとラインが下がり、というかラインを下げさせることが目的だったろうアーリークロスが効いてくる。ここから押し込まれ失点し、日本の反撃も遠くなる。運べないし剥がせない。グループリーグの相手とはさすがに違う。

どうにかキープしラインを上げねば守備は持たないが、攻撃陣は守備に疲れ、交代しても推進力も守備力も上がらず、あとは時間の問題だった。85分に至っても前田大然の走力だけが希望の灯であるという状況に、三笘、南野、久保を失った不運を思った。

悔しいけれど、今はここまでだ。2015年のなでしこ敗退とよく似た、力及ばず、力尽きたという気持ち。

奥様が、敗退した強国がかわいそうかわいそうと言っている。 「日本だってかわいそうだろ!」「日本がブラジルに負けるのは仕方ないじゃない」「そですね…」

2026/09/22

【2026イングランド旅行記(終)】追憶の1993年旅とすばらしき英国のトトロ

「大英博物館と追憶の1993年英国旅行」「冬のニューマーケット競馬場」「雨のテートモダン美術館」「すばらしき英国のトトロ」「さらば麗しのイングランド」

■6月11日     大英博物館と追憶の1993年英国旅

本日は大英博物館。見たいものは見当ついてるので、午前中はゆっくりコベントガーデンを歩いた。博物館にばかりこもり、ロンドンタウンを歩いたのがこれが初めてであった。イングランドはどこを見ても美麗ですねえ。街の光と空気が、俺のカメラできれいに写し取られている。


「英国で人気のKatsuカレー」というものを話の種に食べた。カツじゃなく『蒸しチキンが数片乗った、薄味カレー風味の豆ご飯』だった。うまくはないが豆なので、問題なく食べられた。

そして【大英博物館】へ。「アッシリアの人頭有翼像」に圧倒される。俺は巨石文明に弱い。大きさと重さの畏敬に打たれてしまう。子供の頃読んだ『三つ目がとおる』にもマヤの巨石文明が描かれていた気がする。

回廊の最後にあるもう一つの人頭有翼像。これが最大で一番すごかったな。しかしよく見るとどちらの像も上下にカットされていた。あんな巨大神物をカットしてまで収奪してくるんだから、当時の英国の不遜さはトランプ並みだなと重い気持ちも湧く。現地には人足代しか払わなかったそうだ。

 

ミツビシ寄贈という日本のフロアが予想外によかった。あれは日本の威信と公費をかけて、クールジャパン政策の一環で展示に力を入れてるんだろうと思ったが、ミツビシがメセナ活動として頑張ってるとのこと。えらい。メセナ活動なんて言葉は30年ぶりに聞いた。日本国内の経済はそれどころじゃないので。

少なくとも同型土器が数十並んでいた京都国立博物館や、考古学・歴史的価値の高いものの所蔵がメインである東京国立博物館より、文化的なものを並べたこちらのほうが外国人にはずっと面白いだろう。一番上の階なのに若いお客が多かった。日本のインバウンドへの導線にも確実になっている。

事前にプランした1階の巨大物、2階のマヤその他、3階の韓国、日本フロアを見終えると、大英博物館は意外ともう見たいものがないなと感じた。少なくとも、見れども見れども終わらないV&Aのような途方もなさはない。

俺たちは1993年、知り合って最初の旅でアテネ・パルテノン神殿に行ったので、ギリシャの彫像の破片たちは見なくてもいい。彫像より神殿本体のほうがはるかにすごい。

その旅のロンドン編で大英博物館もすでに来ており、ミイラなどはもう一度見たいとも思わない。なのであの透過光美しいホールでの軽食時間コミ3時間ほどで、サクッと終了した。

V&Aの方が見るもの無尽蔵でカオスで面白かったのもあるし、もう博物館見すぎて俺たちが消耗してたのもある。あとから思えば日程限られた旅で、あんなに博物館ばかり行かず、もっとロンドンを歩けばよかった。V&Aもナショナル・ギャラリーも最高すぎたが、大英はパスしてもよかったのである。

        ◇    ◇    ◇

【追憶の1993年英国旅行】

あの1993年の旅で滞在したロンドンの友人アパートは、あれはどのあたりだったんだろうとMと話す。二人とも全く覚えていない。

「Oxford Street沿いに高級スーパー・マークス&スペンサーがあった。ハイドパークまで徒歩圏内だったかも」とMはいう。この記憶と93年という年度でAIに調べてもらうと、173 Oxford StreetのM&Sでしょうと出た。――カルチャーの町ソーホーじゃん! そういえばフーやボウイが出たロックの殿堂マーキークラブに連れてってもらったわ! すごいところに泊まってたんだな。

そんな良い場所に、若者たちがシェアする大きなフラットがあったんだ。昔だなあ。今なら到底無理だろう。英豪日本の若者が住むロンドンの巨大フラットに、遠く日本から来た日本とカナダの恋人たちが滞在するなんて、青春映画みたいな話だ。

泊めてもらった家のギターでデビッドボウイなど英国ロックを弾くとすごくウケて、楽しかった。俺は初めての海外で、ローマ、アテネとカルチャーショックに打ちひしがれていたのだが、イギリスに来ればやっぱり俺のギターも英語も通じるじゃんと気持ちが明るくなった。あの旅はその後の、どこに住み誰と会っても俺は俺でいられる人生につながっている。

今思えばナショナル・ギャラリーが徒歩圏内というロケーションに泊まっていながら、そのありがたみは分かっていなかった。行った施設は大英博物館、ウェストミンスター、ハイドパークくらいだ。どこもなるほど素敵だねくらいな感じで、今回の旅ほど観光の記憶は残っていない。若く、バカであった。

情報もなかったのだ。昔は紙の地図すら持たず、俺は日本語版、Mは英語版の「地球の歩き方・ヨーロッパ」を携え、そのロンドン編についてる小さな市街図を頼りに歩いてたんだよな。信じられない心細さだ。

当時は今よりも旅行者には物騒なことも多い時代だった。ローマではジプシーの子供たちに取り囲まれるスリ被害にも遭ったし(ポケット空っぽで無事)、アテネではコーラで100ドル取られるボッタクリ詐欺にも遭った(警察を引き連れ乗り込み取り返す)。ロンドンの空港には、機関銃を持つ警官が立っていた。93年はIRAテロのさなかだったのだ。

   ◇    ◇    ◇

【冬のニューマーケット競馬場】

ロンドン友人宅で数日過ごしたあと、競馬好きな俺のために競走馬の聖地ニューマーケットへ行ってみようとなり、今思うと信じられないが、宿も取らずに列車に乗った。バックパッカーが海外で宿を調べて取る方法など、当時はなかったのかもしれない。

ニューマーケット駅前通り。今もなにもない。
ニューマーケットの駅に着くとすでに夜、そこは駅舎もない露天の無人駅で、駅前に町はなく真っ暗だった。小雨も降っており、一体どうすればいいのかと途方に暮れた。

とにかく明かりのある方向へと歩いていくとやっと町が見えてきて、そこにあった最初のホテルで幸いにも宿が取れた。助かったと心底思った。

夜が明けて町に行くと、競馬のオフシーズンは競馬博物館すら閉まっていた。冬に観光客など来る町ではなく、そんなことも知らずに来てたのだ。あの頃を思い出すと、how stunned we were (なんてアホだったの)と俺たちは笑ってしまう。

散歩以外何もすることがない。散歩して、カフェの紅茶で温まってはまた散歩した。しかしあのニューマーケットの丘を見られたのは本当によかったな。競馬雑誌によく載っていたあの丘を、競走馬と調教騎手たちがテクテクと降りてくる様子をゆっくりと眺めた。美しかった。あれは93年英国旅のハイライトだった。


ロンドンの友人アパートに戻り、その年のクリスマスを迎えた。ツリーがないねと大きなクラフト紙を買ってきて、豪日カップルと4人でツリーを作った。その写真が残っている。壁のポスターと安いソファの横に、手作りのツリーが立っている。Mも俺も子供のように若い。

ピカデリーサーカスでMが俺に飛び乗っている写真もある。この写真やペーパーツリーの画像が手元にあるのは、娘が古いアルバムから見つけて興奮し、スマホで撮影して送ってくれたからだ。若いバックパッカーたちの、あの冬のロンドンの空気が写っている。

■6月12日          雨のテートモダン美術館

【英国観光最終日】英国旅の最後は、ロングランヒット中の舞台版『となりのトトロ』が締めのイベントとなった。

最終日なので時間までできるだけの観光をしようと、朝は雨の中テムズ河畔を歩き、「元発電所の圧倒的な建物でピカソやダリを」とGEMINIにおすすめされたテート・モダン美術館へ。

しかしここはどうということはなかった。元発電所といえど中にタービンが残ってるわけではなく、ただがらんどうの大きな建物で、内装外装とも古くもない。俺が警備員として守っていた調布基地の廃ボイラー工場や立川基地の廃工場のほうが、禍々しい機器補機が残っていてはるかにすごかった。

「追憶の調布関東村(1990)」

テートモダンでは、80年代を思い出させる、既視感に満ちたポップアートの巨匠リキテンシュタイン・ルームが一番よかった。この部屋に入ったとき、あの時代のポップアートへの郷愁が俺の中に眠っていたことを知った。マンガのスクリーントーンを巨大化したような、インクと紙の時代の質感。雑誌『宝島』の時代。イイ。もっと壁一面にたくさん貼っておいてほしかったが。

他の抽象作品はロンドンだから特別にすごいということもなく、良いものはよい、そうでないものはそれなりにという感じで、1時間でサクッと切り上げる。俺たちは古典が揃い『オフィーリア』があるという、テート・ブリテン美術館のほうに行くべきだったのかもしれない。

そして歩道橋ミレニアムブリッジを渡り、ウェストエンドのシアターに向かう。どこを眺めても面白い町だよね。やっぱりもっとロンドンを歩くべきだった――旅の終わりに何度もそう思った。

劇場が立ち並ぶウェストエンドに入ると、人々が上を見上げているのに出会った。何があるのかと聞くとここはロンドンオペラ座で、ワールドカップ開幕を祝い2階のデッキにオペラ歌手たちが出てきて歌うのだそうだ。そんなハプニングにたまたま通りかかるなんて、さすがビートルズの屋上コンサートの町ロンドンである。それは見たいものだと20分ほど待ったが、始まらずあきらめて劇場へ。


■6月12日          すばらしき英国のトトロ

Mが渡英前に発見して絶対行くわよと盛り上がり、俺は写真を見て(えー大人がサツキとメイをやるの?…)と非常に懐疑的だったのだが、いやスイマセンでした。良かった! 

トトロのストーリーとキャラはやはり一級品で、イイとしか言いようがない。それを余さず舞台で再現するアイデアが素晴らしかった。

マックロクロスケの逃亡、トトロの発見、雨だれが落ちてくる様子、種が発芽して森になるシーンなどなど。誰もが知るそれらの名シーンをどう表現するのかと待ち構えていると、予想以上の大仕掛けだったり、予想を裏切る工夫だけでシンプルに表現したりする。その一つ一つになるほどこう来たかと、よく知る古典を新作で味わう良さがある。再現してなかったのは入浴シーンくらいかも。 

ストーリーを完璧に追いつつ、台詞と演技で皆のキャラがアニメより膨んでいるのがまたイイ。ハキハキの北部英国アクセントで話すサツキは愛らしくポジティブで、メイはオリジナルより若干moreワガママになっている。カンタはサツキと仲良くなりたいと鶏たちと相談する。全員原作を損ねない範囲でアニメより一言多くワンキャラ余分に載っており、「メイのバカ、stupid Mei!」と日本語セリフも随所に挟まれ、海外でリライトされた物語として味わいを増している。

出演者は全員大人だがこのキャラの膨らみもあって、俺が心配してた大人が子供のフリをしている茶番感はない。英国らしさのちゃんとある「となりのトトロ」になっていた。

音楽は久石譲監修らしく期待してたのだが、ここは実は味気なかった。何年ものロングランゆえか楽団の演奏と音のミックスが洗練されすぎて、舞台上に楽隊は見えるのにスタジオ録音にしか聞こえない。どれだけ楽団員に目を凝らし耳を澄ませても生音が聞き取れず、まるで劇伴のクチパク演奏みたいであった。芝居そのものは十分に楽しみつつ、音にライブ感がないと名曲が流れてきても、不思議なほど音楽の感動スイッチは入らないものだなと俺は思っていた。

 

俺はけなげなサツキの声が好きで、アニメを見るたびに目頭熱くなる。「どうしたらいいのか分からないの!」で毎回じわっとなる。この舞台のサツキの声にも泣かされた。

後半はメイやトトロの名を叫ぶサツキの声に胸かきむしられ、ハンカチで涙を拭いながら見ていた。恥ずかしいので横は見なかったが、Mも泣いていたそうだ。大満足である。拍手。

涙を拭いて写真を撮り、ムスメに送った。「いや、素晴らしかったよ。大人がサツキー? と疑った私が間違っていた🙂」。


■6月12日               さらば麗しのイングランド

本日帰国便。荷造りを終え、フーとホテルチェックアウトまで過ごしているところ。自宅の家事や猫の世話などやりたいことがたくさんあって、旅の終わりにほっとしている。イングランドは美しい国だった。どこを歩いても絵になる。しかし、何をするにもお金がかかる国でもあった。もしお金の心配がなければ、まだまだ見たい場所は尽きなかっただろう。

この駅で足止めくらったのだと写真を撮る


初日に運転停止という大トラブルを起こしたピカデリー線に、再び乗って空港へ向かう。長い旅だった。英国人は旅行好きで、カナダにも日本にもよく来るが、こんなイントレスティングな国なら国内旅行だけで一生楽しめるだろう。そこは日本みたいでもある。古い国はどこへ行ってもなにかがあり、旅行が楽しいのだ。カナダは田舎に行くと自然しかない。

ヒースロー空港でデビッド・ホックニーの訃報を見かけ、そういえばホックニーはどこの美術館にもなかったなと思った。現代美術のテートモダンも展示は薄くて。――あ、そうか、英国作家の作品は英国作家美術館テートブリテンにあったのか! あああああ…後悔。

お疲れ様でした。楽しく充実した旅だった。さらば麗しの国、イングランドよ。