2019/07/02

映画「イエスタデイ」の音楽部分感想(ネタバレなし)

「君はビートルズ好きだから一緒に行こう」と奥様の友人夫妻に誘われ、金曜に封切られた映画「イエスタデイ」を見てまいりました。

「凡庸なシンガーが、彼だけがビートルズを知っている世界で成功する…」というのはありがちなSF設定だなと懐疑的だったのだが、予想したよりずっとよかった。借りぐらしのドタバタコメディじゃなく、成功や失敗の話でもなく、「ビートルズが忘れられた世界とラブ」というお話だったのです。いやー、4人揃って泣いた。

日本での公開は夏以降だそうなので、ネタバレを避けビートルズ好き視点で前半の音楽部分だけ感想を。

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設定を聞いた俺は、「いや曲がいいだけで売れるわけないだろ、演奏は! 歌は! メンバーは! ビジュアルは!」と思ってたわけ。しかしそのビートル警察的イキリ立ちは早々に解除されたのであった。凡庸なシンガーである主人公ジャックがビートルズをアコギで弾き語ると、仲のいい友だちは「お前なんといういい歌を書いたのだ」と感動するのだが、パブの客たちは相変わらず見向きもしない。やっぱり曲の力だけではなかなか伝わらないわけです。

でマネージャーと友だちの少しのヘルプを得て自費スタジオ録音に臨み、音と音が重なることで初めてビートルズのマジックが立ち現われてくる。ここが音楽的に面白かった。彼が独力ではたいしたことないシンガーなおかげで(笑)、音が重なるだけでとんでもなく良くなるビートルズの曲がいかにすごいかとまざまざと分かるわけ。ここからジャックの快進撃が始まるのです。

つまりこの映画は「ビートルズの音」という奇跡を再現しようとはしていなくて、そこで肩の力を抜いて安心して見れたわけ。ジャック君が気持ちをこめ歌い、バックバンドが今風にきちっと音を詰めソツのない演奏をするだけで、ああ! 改めてなんといういい曲なのかとハッとするモーメントがどんどんと生まれていく。この音楽の使い方はクイーンの音を相当に再現していた「ボヘミアン・ラプソディ」とはまったく違っていて、それがハマっていたのだ。

そして付け加えると、無名時代のマネージャー・エリーがたまらなくいい。映画を見てるビートルズ者たちは当然ながら、「ジャックお前はバカか! 今夜彼女を連れ出さなきゃ、ユーゴナ・ルーズ・ザットガールだ!」となるわけである。こんな子のため歌えたら、たとえ成功しなくても幸せだよ :-)

我が友テラくらいのビートルマニアは「ジョンの曲もポールの曲もジョージの曲も演奏するのか、ふつう偏るだろ!」みたいな不満は感じるかもしれない。しかし「Now I long for yesterday(昨日が恋しい)」というのは、この映画にふさわしいタイトルだったですよ。後半はビートルテラ先生もテキストブックをバサリと落とし、教壇で泣くと思うよ。そういうのを映画的瞬間と呼ぶのだろう。ビートルマニアがケチを付け始めたら、「あの演奏はビートルズ解釈として深みに欠ける」とか言える。キリがない。しかしそういう映画じゃないのだ。

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