2010/03/10

日記「She Shall be Released」

「フィギュアスケートファン恐るべし」「フィンケ監督の芸のなさ」「日加メンタリティ」ほか

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■10/03/01(月) □ フィギュアスケートファン恐るべし
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 「MURMUR 別館」に続いて Mizumizu さんという、これまたすごいフィギュアスケートファンのブログが見つかってしまった。JリーグとWC94でサッカーに夢中になった頃、ニフティサーブでファン評論の数々を読んでサッカーファンはなんてインテリジェントなんだと驚いたが、フィギュアファンの知性にもドギモを抜かれる。他のどんなスポーツにも負けないほど深くシャープな評論がなされている分野なのだった。

 この Mizumizu さんの記事は冷徹な技術と芸術性評論で、ビデオテープで細かく分析できる演技最長3分ほどのスポーツならではといえる顕微鏡分析(―――と同時にそうした顕微鏡分析による減点システムが自由と美をないがしろにすることへの猛烈な批判!―――)に満ちており唸らされる。キムヨナ選手や浅田真央選手の長所短所を解説した上で、浅田安藤に勝たせないためにキム選手の点がどうやって上げられているかを丁寧に解析している。
この2人にはそれぞれの強さと弱さがある。今のルールがキム選手を過剰に評価し、浅田選手の欠点を徹底的にマイナスにしてくるだけだ。ルール策定でそうなっているのだから、ジャッジはそのとおりに採点する。それにジャッジ団は事前に意識合わせをして採点するから、そこで何かしらの調整が行われる。それだけの話だ。(「いくら完成度を高めても点がもらえない、ジョニー・ウィアー選手」(2010年02月27日))

レベル取りを考えると結局みな、同じようなことをするようになるんですね。そうした要求事項をこなすのにいっぱいいっぱいになって、1人1人の個性を生かした芸術性が消えていく。たとえば、ライザチェックはシーズン初めはかなり密度の濃い、難しいプログラムにしてました。でも、それだと今の採点だと点がでない。逆に減点ポイントが増えちゃうんでしょうね。なんでかなりプログラムをスカスカにして、エレメンツの条件を満たすことに注力したら、点がのびてきました。すぐに対応させた彼も素晴らしいですが…
よくキム選手の演技について、「いつも同じように見える」「つまらない」とメールをくださる方がいます。(中略)つまり今のシステムで点を出そうとすると、どうしてもああいった演技になるんですね。ところがファンは、個性的な美しい振付を見たいと思っている。フィギュアの演技自体が全体的に「つまらなくなった」と言う人も多い。どちらも同じ背景があります。あれこれ詰め込んだエレメンツのレベル取りのための要件を満たすための演技になってしまうんですね。(「なぜ「つまらない」演技の点が高いのか」(2009年04月03日))

 こうした技術解説を読んで、ライサチェクを退屈と感じ、キム選手をライサチェクの切れ向上版と俺が感じたのはそのあたりだったんだなあと思う。この2人は「減点が出にくい技を選び、技を少なめにして時間と体力に余裕のあるプログラムにして失敗を防ぎ、完璧に磨き上げスコアを上げるという」方法で成功したわけである。だから変化に乏しく退屈だと俺も感じたのだ。こうして微に入る分析を読めばキム選手の銀河得点にはロビー活動と過大評価も強力に作用していたとしか考えられず、俺はそれも感じ取ったのである。

 惜しむらくは浅田選手の滑りにもこの状況を打ち破るだけの力はなかったのだが、しかしこの2つのサイトでルールの変遷と状況変化を追えば、彼女(と安藤選手)の得意技がルールによりガリガリと削られていく様が見て取れ、同情の余地は大いにあるとわかる(ジャンプの回転不足ジャッジが厳しすぎて一昨年まで使えた3+3が使えず、あのいかにもショボイ3+2にせざるを得なかったなどなど)。こんな異常なルールが今後も続くはずがなく、浅田選手にとってこれから状況は間違いなくよくなるはずだ。

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■10/03/04(木) □ これがウオッカの見納めかもしれない
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 【ドバイ・マクトゥームチャレンジ】ウオッカが出るので日時をチェックして Youtube で見たのだが、大外を豪快に来た馬は一緒に行ったレッドディザイアだった。ウオッカは好位からまったく伸びず。よく見ると伸びないとわかった時点で騎手(ルメール)が無理に追わずに馬なりで走らせている。もしレースに行ってもウオッカに闘争心が出ないなら、無理はさせずここで(ドバイWCはキャンセルして)引退と陣営は決めているのかもしれない。

 もうほんとそれでまったく構わないです、ファンは。チャンピオンシップはレッドディザイアが戦ってくれる。あれもまったく素晴らしい馬だ。日本の優れたチャンピオンホースなら、つまり十年に一度の名馬クラスではなくても、世界トップレベルでしっかりと走れるだろう。

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■10/03/06(土) □ フィンケ監督の芸のなさ
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 【Jリーグ開幕:鹿島-浦和】興梠がファーストタッチをゴールしてしまった。際どいクロスをトラップせずそのまま打つところがJの規格外にいけそうな興梠の意外性で、素晴らしい。坪井とGKは彼がダイレクトで打つとは思っておらず対処できなかったのである。代表では岡崎がいるので出番がないまま落ちてしまうだろうが、もう少しチャンスを与えてみてほしかった。

 しかしフィンケ浦和はオフがあったのに去年から何も進歩してないのでびっくりした。柏木はいい選手だが、エスクデロという一本調子な選手がいることで何かをやろうとするたびに読まれ潰されてしまう。前がかりな選手が多い中後ろからボールを散らしていたゲームメーカー闘莉王はもういないし。結局みんな平均以上にうまいがちっともシュートが打てないし反撃にはもろいという、去年と同じ浦和なのである。フィンケ監督のこの芸のなさには日本中がびっくりしてるだろう。浦和はどうするつもりなんだろう。

【ウオッカ引退】あ。やはり。鼻出血だそうだ。ルメールが直線追ってなかったのは、おかしいと感じてのことだったのだろう。とにかく大事に至らなくてよかった。考えたくはなくても、同じドバイで悲運にあったホクトベガのことが頭をよぎって仕方がなかったのである。お疲れさまでした、ほんとに。

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■10/03/07(日) □ 日加メンタリティ
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 夜、恒例の「YAWARA」を萌に読む。しかし最近マンガを読んでやってると、俺の日本語発音がえらい弱まっており情けない。もともと声が小さくカツゼツは悪いが、「全日本女子柔道大会選手権」みたいな長い単語が入ると「ぜんにほんジョジュジョ」ともつれてしまう。英語の発音はここ 10 年くらいよくも悪くもなってないと思うが、日本語のほうは萌との語彙少なめ英語交じり会話しか喋る機会が少ないので、こういう普段発音することがない堅い熟語の発音が特に劣化しているようだ。うーむ。

 まあ日本に住んでいても本を音読するなんて機会はないし、在宅で仕事をしていたら似たような環境になるよなあ。意識して口の筋肉を動かすよう、「アエイウエオアオ」みたいな運動をやっていこう。それにこうして読んでやること自体が俺の訓練となる。考えてみれば雑誌「おひさま」を読まなくなってもう2~3年、俺が萌に何かを読んでやったことなどないからな。

 最近萌が英語で話していると、俺はJDその他のクラスメイトと喋っているかのような気がする。内容よりもスタイルが勝った、レトリックをべらべらべらと喋ることが多い。クールであるべく何事も断定口調になるところに虚勢があり、ディズニーチャンネルのハナモンタナその他にも似ている。おいおい日本語を喋ってくれと指摘すると元の萌に戻るのだが、カナダの小学校にいるとこれはもうどうしようもないのだろうか。学校が違うKTたちにも似た傾向はあるしなー。

 日本語の語彙が増えないことには、表現法として英語が圧倒的優位になりメンタリティも英語化して行く一方なので、こうしてマンガやゲームの力を借りて日本語力を伸ばしていきたい。TV Japan がここ1年ほど面白い番組をやってくれないのが残念。

 萌はこないだのオリンピックもあって「自分は日本人」という強い自我があるが、別に日本人でなくてもいいから、誰かみたいではなく彼女らしくビューティフルな精神を持っていてほしいのだ。

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■10/03/08(月) □ She Shall be Released
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 今日は掃除&オフ。そして Mizumizu さんのフィギュア評論をついに完読となる。最初に見つけた「MURMUR 別館」さんもスケート愛にあふれ素晴らしかったが、微に入り細に入る技術探求がなされた Mizumizu さんブログはテキストだけで 1.3MB もあり、これは書籍1冊では済まないほどの量だろう。すばらしい。フィギュア評論界の武藤さんだ。

 この2つのサイトのおかげさまで、過去4年ほどのフィギュア界の流れがばっちりわかり実に面白かった。キム選手は引退するそうだが、今後改正されるだろうルール下で浅田選手たちと彼女が競う機会がなくなるのは残念ではあるものの、やることをやり尽くし頂点に達したわけでその引退を惜しむ声はさほど上がらないんじゃないかと思う。あのエキジビジョンの「After the Thrill is Gone」といった感じの静かな演技と会場の反応を見てもそう思った。それと違い浅田選手はエキジビジョンを見ただけで、縛られているものから解放されればもっと素晴らしいものが見せてもらえるなと誰にでも分かる。

 Youtube で伊藤みどり選手のカルガリーオリンピックの演技が見つかり、これがすごかった。ダブルのジャンプで1発目着地に失敗(ステップアウト)しても躊躇なく2発目を飛び、その着地も同様に失敗してるのにもうどうにも止まらないという勢いで一瞬もためらわず次の技へと突き進んでいく。アメリカの解説者が楽しすぎて大笑いし、観客総立ち、みどり感激大泣きという素晴らしい演技だった。

 浅田選手が現役の間に、こういう演技が見られたらと願う。あの人の才能と美が自然に発露され、人々に楽しまれ、そして正当に評価されますように。Any day now, any day now, she shall be released。

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