2011/03/23

日記「カナダから祈りを送る折り鶴」

「原発関係者と報道記者」「海外原発報道のトーン」「光はそこまで差している」「躍動のスクールダンス」ほか。

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■11/03/12(土) □ 東北大震災3日目
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木曜夜(日本の 11 日午後)寝支度をしていると TV Japan がニュース映像に切り替わり、津波映像が映し出された。それからただただニュースに釘付けだった2日間の自分の日記はもう、ブログにコピーしても悲しいだけで意味がないので省略。

 大震災2日目が暮れる。大津波警報はようやく津波警報に下がった。しかし救助は物理的な困難さから進まないまま、1日が終わってしまったようである。「南三陸町では住民の半数近い1万人の所在が不明」といった、皆が恐れていた桁が違う数字が出始めた。

 日本の明け方まで報道のアップデートもないはずなので、俺もひとまず NHK 国際放送を見るのを休止する。ふー。休止することが、被災者に対し申し訳ないような気さえする。この震災ニュースから片時も目を離せない感覚というのは、俺が日本人だからなんだろうか。

 Mはニュースを見てひどいまるでアルマゲドンだと泣き、俺の手を握り義援金を送ろうと言うが、一応普段どおりの生活を送っている。ニュースを見たら精神的にヘビーになるから彼女は意識的に一定量以上見ないのであり、俺にもあまりニュースばかり見るなと言うのである。しかし俺はとても見ずにはいられない。

 スマトラ沖地震のときも俺はニュースを見て同様に悲嘆したけれど、今ほどそのニュースばかりを追ってはいなかった(ハイチ地震に至っては、ああまた地震があったのか、大変だな程度の認識しかなかった、すいません)。―――あ、そうか。NHK 国際で事態の進展を逐一見られる環境にあるからか。だから俺は目を離せないんだ。

 それに母国だからというのもあるけど、それだけじゃないと思う。無数の町がまるごと消え―――廃墟すら残ってないのだ―――、水は引かず救助が進まず原発問題も深刻化していくなど事態があまりにもあまりにも悪すぎて、この最悪の中からなにか少しでも好転する知らせがないものかと、その知らせを俺は渇望しているんだろう。むろんそれはさらなる悪い知らせへの怯えとセットなんだが。

 世界貿易センタービルが数百本一気に崩れたようなこのショックは、流され消えたのが無数の命に加え、1つ1つかけがえのないものが詰まった家々と、それが集まった大切な町だったからだろうと思う。WTC ビルが崩れ去っても家族とパーソナルなものは残ったが、津波では何一つ残らない。東北というよりも日本の 1/4 ほどが消えてしまったという印象があり、さらには原発でさらに失われる範囲が広がる可能性もあって、本当に遠くからニュースを見ているだけでぐったりするほどの絶望を感じるのである。

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■11/03/14(月) □ 原発関係者と報道記者
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 原子炉で圧力が上がり水が入らないなど事故が連鎖し、恐怖が続く日々。原発関係者の記者会見はひどい。「原子力法何条に基づき報告の義務がある状況が継続中」とかぶつぶつ言うだけで、状況がまるで分からないのである。こんな言い方でカチンと来るなという方が無理で記者から怒号が飛ぶのだが、記者も寝てないのか頭がパニックになってるのかツッコミ方が悪くて、やはり事実がわからない。原発関係者と日本報道記者の双方にコミュニケーション問題があることが今回明らかになっている。昨日「マスコミも報道をしっかりしてくれ」的な失言をした官房長官に記者が噛み付いたのも馬鹿げていた。それどころじゃないだろう、目下の状況ではそんな失言くらい流せよと思った。

 結局会見中継はラチがあかんとぶった切って、NHK 解説者が通訳する。現在バルブを開け圧力を下げ注水を再開しようと努力しているということらしい。このように解説者が会見場にいて、「つまりこういうことですね?」と仕切ってくれれば会見時間の無駄がなくなるのだが。こうして火急の件が一向に知らされないというのも、国民の精神的な災害の上積みだろう。

 すべての人々が全力を尽くしている。東電だってコミュニケーションはアレだが死力を尽くしているはずだ。頼みます。

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 原子炉は大量リークからは俵一枚で踏みとどまっているというところであるようだが、止まっているはずの4号機から放射能が出ている。解説によると、使用済み燃料が沈められているプールの水が循環されず蒸発し、外気にさらされ熱を持ち水素を出し爆発したのではないかという。外気に露出しているからそこから高い放射能が出てるのだろうと。そっちかー。そんな話はこれまで一度も出てないではないか。まさかそっちはこれまでなにもケアしてなかったのか東電!

 ―――というか使用済み核燃料が安全なところに密閉されてないということに驚いた。そんなものは地下のコンクリートの底の中の奥くらいに入ってるのだろうと普通は想像するではないか。原発ってなんか一般常識が通用しない世界である。後から後から新たな問題が出てくる。

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■11/03/15(火) □ 海外原発報道のトーン
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 今度は静岡で大きな地震が起きていた。しかし今の日本の人々は、どんな地震でも「津波がなかっただけでもよかった」と思えるだろう。1~3号機の冷却は続いており、4号機の使用済み核燃料プールへの注水が火急の問題という段階。

 日本の報道は、少なくとも政府とNHKは不安を煽らないよう原発報道のトーンを極力抑えているわけだが、海外メディアはそうしたことを気にしないので、今朝のCBCラジオ特集番組のオープニングなどまったくパニック映画のプレビューのごとく、「マグニチュード9の巨大地震! 巨大津波! そして間近に迫る原発の破滅!」とか声高々とやっていて、イラっとさせられる。

 さらにCBC日本駐在アナは、「原発に近いエリアから逃げる車で渋滞が起きている」などとコトを大げさにレポートする。今の時点で政府の指示を待たず個人が大挙原発エリアから逃げるなんてことは、日本人のメンタリティとして考えにくい。頼るツテがあって移動する人はそりゃいるだろうが、民衆にパニックが起きてるみたいな言い方をされるとまたイラっとする。世界株式の反応などもふざけており、イライラさせられます。

 菅首相は「死んでも止めろ、さもなくば東電は絶対に潰れる」的なことを言って東電を叱咤したそうだが、問題の本質と恐怖は作業員が死んでも止められないかもしれないということなのであり、気持ちはわかるが響きは虚しい。

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 4号炉からまた煙と炎。うーむ。そんな危険な使用済み核燃料が入ったプールが屋根ひとつ壊れたら表に出てきちゃう建物構造になってるとは、原発というのは驚くほどもろい。また1つ大きく退歩させられたことになる。遠くから見ているだけでもしんどい。まったく悪夢のような災害だ。

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■11/03/16(水) □ 光はそこまで差している
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 自衛隊ヘリからの散水が始まった。プールは深さ 15mもあるそうで、ヘリの床に鉛を敷き防護服を着た乗員が操作してるそうである。頑張ってくれ。

 地上からの放水もこの後予定されており、午後からは冷却装置電源の回復工事が始まるという明るい知らせもある。原発に電気が戻れば本当にそれは希望の光だ。それで冷却系が動くかはまだ不明とのことだが、「発電施設さえ津波で壊滅しなければ、日本の原発はこの震災にも耐えられたのだ」という形で日本技術者の意地を証明してくれるのではないかと期待したい。プロジェクト X。光はそこまで差している。

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 放水は結局始まらないまま夜を迎えそうだが、炉の方にはこれでほぼまる2日危険な徴候が出ていないので、メルトダウンへの息が苦しくなるほどの緊張は感じずに済んでいる。官房長官が出てくる頻度が下がってるのが危機感を下げている。電気が通じるまで現状維持できますように。すべてうまく行きますように。神様お願いします。

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■11/03/18(金) □ 躍動のスクールダンス
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 NHK の終夜災害放送がついに終了し、新たなニュースがあるときを除き字幕放送になった。電源接続はやはり苦労しているらしい。


「マカレナ」でみな笑顔
 今日は萌の学校の終業日、午後からダンスがある。萌はもともと空手の型など体を優雅に動かすのは得意なのだが(ボール扱いなど hands-eye coordination は苦手)、「マカレナ」での躍動感は素晴らしく、そのナチュラルなノリっぷりが心地よい。最近ポップソングにかぶれヒップホップ的ダンスばかりやって俺をがっかりさせており、せめてジャネットジャクソンみたいにリズムに乗った小さくてシャープな振りで踊ってくれといつも頼んでいるのだが、リズムに自然に乗った「マカレナ」にはそれに近いものがあった。多人数で同じことをコリコリにやるヒップホップダンス的なものは馬鹿馬鹿しいといつも思うが、作り物ではなく人が自然に動くダンスはいい。

 それと萌はずっとMRと一緒に踊っていたのだが、彼女の楽しげな顔が素晴らしかった。気難しくぶっきらぼうな子で俺は笑い顔を見たことがなかったのだが、あんな笑顔で踊られるとなんだいい子じゃないかとほっとする。

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 原発ニュースに変化なし。しかしついに農産物から放射線が検出されたというショックな報告。量は少なくともこれは誰もが最も恐れることで、これまで気丈にしていた枝野長官も表情が暗い。とにもかくにも放射能を止めるしかない。それまでリスクのあるものは食べないようにするしかない。

 海外の報道機関は日本が公表していることを「!」付きでアンプで増幅して報道しており、さらには日本が公開してないこともあるんじゃないか、公表が遅いんじゃないかとと疑念を持ってかかっているらしい。MやLDが典型的であるように日本で働いたことがある外国人は日本組織の官僚性に対する反感があり、ことなかれ主義と軽んじてるからだろう。

 しかし災害もここまで来ると「ことなかれ主義」はもはや祈りに近い。ことなかれことなかれとつぶやきながら全力を尽くさないとやってられないわけで、たとえ「コト」的なことがあっても分厚いクッションをもって慎重に扱わなければならない。枝野長官はじめ日本政府がやっているのはそういうことなのだ。

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■11/03/22(火) □ カナダから祈りを送る折り鶴
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 ニュースは制御室の電気がついた(すでに全号機に通電はしているらしい)という他は、放射能が拡散、蓄積という重い知らせのみ。福島県産の農産物はすでにほとんど出荷できなくなっている。


カナダからの祈りを中継する折り鶴
 春休みが終わったらGL小学校で日本への募金を募ろうと日本人お母さんたちが計画を立て、うちも参加させてもらうことになり説明を受けに行ってきた。GLには日本人子息が11人もいるそうである(3~4人しか知らなかった)。その全家庭で折り鶴を千羽作り、募金してくれた人にお礼として差し上げようという素敵な案で、俺と萌は折り紙ビギナーなので 50 羽でよいと言われ折り紙と説明書をいただく。頑張ります。

 集まるだろう募金もありがたいし、日本では平和や安全や病気の快癒を祈るのに千羽鶴を捧げるのだとカナダの子供たちに教えてあげられるのがすごくナイスだと思う。募金をしてくれた子の家々に千羽鶴が散っていき、そこから祈りを送ってくれるようなイメージが湧いてくる。

2011/03/10

日記「モノポリーよりバンカース」

「キヨシローみたいに連れていかないでください」ほか。

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■11/02/26(土) □ モノポリーよりバンカース
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 今日は小雪。風邪がまだ抜けない萌は一人でアクセサリーを作っている。そしてこれをフリーマーケットで売りたいという。ものを売るというのはほんと難しいんだ、同じものがどこのアクセサリショップでも買えるわけだからと説明するが、そうしたバリュー感覚などまだわからんようである。子供にとってなにかを売るということはすごくエキサイティングなことなんだろう。一昨年の夏に近所の子一同でレモネードスタンドを出し、通りがかった人数人に買ってもらって狂喜していたしな。

 そうだ、何かを売るゲームを萌にやらせたい。とりあえずうちにあるのはモノポリーだけなので、これはカルカソンヌ購入の前に試してみてなんか面倒だったんだよなと思いつつ萌とやってみる。


デザインはまことにニートなんですが
サイコロを振り土地を買いチャンスカードを引くのは、俺が子供の頃胸踊らせ大好きだった「バンカース(日本製のモノポリークローン)」と同じ昔ながらの普遍性ある楽しさで、萌も張り切って土地を買いまくる。

 しかし改めてモノポリー公式ルールを読んでみて、そのめんどくささに呆れた。「バンカース」や「いただきストリート」は止まったところに即家を建てられるのだが、これは止まったところは土地の権利証しか買えない。そこにコマを置くことすらできない。そしてそこに敵が止まっても $200 の土地で $16 とかの、ほとんどゲーム的に意味がない家賃しか取れない。で2~3箇所の《同色の町を独占して初めて家を建てられる》というのだ。なんだこのめんどくささは。つまり敵が妨害して1箇所土地を取ったら、もうその色の町は資産価値ほぼゼロではないか。

 とここでモノポリーは取り引きがあるんだと思いだした。とりあえず敵がほしい土地を買っておいて高い値で売りつけるというのが戦略なのだろう。しかし同色独占してから家というだけでもクソ時間がかかるのに、その上交渉事まであるんじゃ面倒でやる気がせん。最初は土地の購入に盛り上がった萌も、ぐるぐる回り購入資金が尽きたあたりで興味をなくしてしまい、ひとまず中止。

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 俺はとにかくお手軽に遊びたいので、

《止まったら即家建築、同色町2個ゲットで家賃2倍、3で3倍》

 の「いたスト」式ルールでもう一度やることにした。家の所有者が誰か一目でわかるよう、単色の家ピース(※)の代わりにとりあえず2色のミープル(カルカソンヌのコマ)を使う。このルールだと2周目からさっそく金の取り合いが始まり、即座に盛り上がり笑える。本式ルールより5周以上早いだろう。
(※)最初は土地の所有者を示すコマが何もないので「ここ誰か持ってる?」といちいち聞かねばならないし、家が建つと全員が同じ色の家なので、「この家誰の?」といちいち聞かねばならない。この馬鹿げたルールが半世紀にも渡り改められていないというのは、めんどくささの軸が日本人とは異なるアメリカカナダらしい。「いちいち聞かなくて済むように」とは思考が進まず、「聞けば分かるんだから」となるのである。こういう例はカナダに暮らしているとしょっちゅう見つかる。

 萌はさらに、「自分の町に止まったらそこでは自分が一番偉いのだから、リスペクトマネー(1家賃と同額)をもらえることにしよう」という。面白いのでとりあえず採用(笑)。これで10周くらいしてサイコロを振るたびにガンガン巨額のマネーが飛び交うような状況になり、うわーとえらい盛り上がった。俺が萌の家賃 $1000 地獄タウンに2度止まり、明らかに勝負がついたところで終了。ボードゲームは当事者が楽しければいいのであり、これでよし。

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 独占しないと建てられない家、土地競売、交渉、ゾロ目システム、無闇に出にくい刑務所、破産負け抜け制といった公式ルールは、すべて省略した。これらはモノポリーしかゲームがなかった時代にゲームをふくらませるために加えられたのだろうが、現代のゲーム感覚ではそれらによる深みよりもプレイ時間増大の苦痛のほうが大きい。こうしたルールが煩雑で時間がかかるからモノポリーは誰でも知ってるけど誰もやらず、カナダのどこの中古屋でも山積みキングのゲームとなっているのだろう。

今検索して写真を見、バンカースの地名はなんと
全部日本の町名だったのだと思いだした。栄町とか、

「電車に乗り遅れる」とか、懐かしすぎ。
どれほど子葉を充実させても勝負を決するのはやはりサイコロ運なわけで、このゲームはその面白さのキモであるサイコロと売買とお金のやりとり(と交渉)を味わえればいいのである。そうするとつまり「バンカース」と「いただきストリート」になる。「バンカース」は今にして思うとコマがちゃんと色分けしてあるし、子供が覚えられないルールはすべて省略され、モノポリーのキモだけを抜き出してあったのだ。日本のおもちゃ屋さんはアイデアはパクリでも気が利いてるよ。


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■11/02/28(月) □ キヨシローみたいに連れていかないでください
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 NHK 国際で桑田佳祐復活の軌跡という番組があり、1年で復帰したからそうとは知らなかったのだが、実は食道と臓器の一部も切除する大手術だったのだそうだ。入院中の写真を見るとやはりびっくりしてしまう。

 桑田がフィルムコンサートの後サプライズで登場し歌い始めると、客席中が涙に包まれる。神から授かったかのような才能と、まだ体がきついのにこんな風にサービスをしないではいられない親切心が同居している奇跡のような人だから、だから帰ってきてくれたことにみんな泣けてしまうんだよ。日本ポピュラー音楽界の頂点を極めながら、超絶高品質歌謡曲カバーのコンサート(Act Against AIDS)をやってくれるし、病に倒れてもこうしてお客さんに会いに行かずにはいられない。この働き者っぷりは他の国の大御所ミュージシャンではあり得ない。まさに日本的な音楽者なのである。

 どうかどうか神様。この勤勉さと親切さに免じて、この人をキヨシローみたいに連れていかないでください。