「『ハルとナツ』のシャウト」「Lost in Translation」ほか。
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■ 05/12/26(月) 11:31:35 □「ハルとナツ」のシャウト
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静かなボクシングデイ。NHKの年末特番でドラマ
「ハルとナツ」というのをやっていた。これも、「世界の中心」や「冬ソナ」式アジア闇雲症候群の産物としか感じられない。途中で見るのをやめたが、「おしん」などと何も違いはないものを、21世紀に森光子と野際陽子を使って作るというのはどういうセンスなんだろう―――と調べてみたら、その「おしん」と同じ橋田寿賀子脚本なのであった。いつまでやってるんですか。
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これを見て思い出したが、
バンクーバーの日系移民1世だったばあちゃんが晩年(70年代?)に書いた戦中回顧録を見つけたから読解を手伝ってくれと、こないだLDがハリソンに日記帳を持ってきたのだった。教育を受けられなかった昔の人が全篇カタカナ書きで書いたものなので、文法書き方が無茶苦茶で超難解だったのだが、苦労して読み進めてみるとびっくり。「わたしの隣の家には手の長い人(盗癖のある人という意味らしい)が住んでいて、米やしょうゆを盗まれた」「なのにパウエル(日系人街)の世話役はまともに取り合ってくれず、本当に悔しい思いをした」「そんな隣人でも病気になれば放っておけず、看病してやったりもしたのに、恩知らずである」といった具合に、昔の愚痴だけが延々と書かれているのである。
今から見れば、うーむ昔はいろいろと本当に大変だったのねえと、それだけしか感想は湧いてこない。「秘められた家族の歴史が今白日の下に明かされる」とワクワクしていたLDはそんなわけで、内容(のなさ)にえらいがっくりしていたのだが、この「ハルとナツ」というのもその回顧録とほとんど変わらないのである。昔はいろいろと本当に大変だったのねえ。
だがしかし当事者にとっては個々の苦労話が、語らずには死ねないほど大事な事柄なのだろう。そうした沸き起こる声、すなわちシャウトする魂の迫力はばあちゃんの回顧録から伝わってきたので、俺はそう言ってLDを慰めたのだった。世界中の「ハルとナツ」たちにとってもそれは同じことなのだろうと、TVのスイッチを切りながら思った。
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■ 05/12/27(火) 10:32:32 □「Lost in Translation」
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夕方MKと萌がクリスマスライトを眺めつつ、2km 向こうのLD家まで行ってしまった。迎えに行くと萌は夜散歩して夜LDのところへ訪ねてきたのがえらい楽しかったようで、興奮していた。
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【Lost in Translation】
「Lost in Translation」を夜見る。DVD+英語字幕は最強だ、セリフが全部分かる。コッポラ監督が街を見る目はすばらしく、外国人でありかつ映画であるゆえの日本に対するデフォルメはかなりあるが、彼女が写し撮った東京とそこでの恋の美しさがそれを許させ、甘い時間を味あわせてくれる。
低すぎるシャワーとか部屋に娼婦が送られてきたりとか、英語の通じなさとかゲームセンターやパチンコ屋の騒音など、誇張部分をピックアップしていくとけっこうくだらない。が、日本に外国人スターを使ったろくでもないCMや、電車の中でポルノ漫画を読む男たち、がなりたてる選挙カー、「マシュー南」のようなものがわらわらと存在するのは事実なのであって、
映画ゆえに自動的にボブ・ハリスと同じにセットされたシニカルな視聴者の目線と心象はそんな日本を、奇怪な「パッション」「テンション」を持つ国だとつよく感じ取る。なにか本当のことを言ってるような気がしない通訳によるコミュニケーション・ストレスなどもリアルだし(※)、カルチャーショックを受けたボブが一刻も早くここから逃れたいと願うのはよく分かる。
(※)同時にこの通訳の人の、「こんなCM監督の言ってることなど英訳しようがないし、逐一訳しても価値がないから要点のみ手短に」という気持ちも、俺はやったことがあるからよく分かる(笑)。通訳さん名演。
そのボブと、異国で孤独さに耐えかねているシャーロットが、旅先で時間を共有するパートナーを得たことでカルチャーショックと折り合いをつけていくあたりが心地よい。「チャーリー・ブラウン」と共に夜の町を走り遊ぶシーンは輝いている。カラオケでセックスピストルズ、エルビスコステロ、プリテンダーズ、ロキシーミュージック、そしてはっぴいえんど(風をあつめて)と豪華5曲が歌われる。その音楽センスのよさにしびれ、本当にそんなクールなカラオケが楽しまれているのであろう日本音楽カルチャーの面白さも感じさせる。この映画は、美しい絵といい音楽に満たされている。
ここからはそれぞれが単独で日本の他の場所を旅してみたり、レストランを巡ったり、半分ジョークで病院に行ってみたりといった余裕が生まれ、
ボブはかたくなに拒否していた「マシュー南」ショーにも出てしまうほどリラックスしていく(※)。
(※)すでにこの映画を見ていたLDと後で話したのだが、やっぱりLDにとってもあの「マシュー南」は、「あれって本当にニホンよねー!」と強烈な印象を残していた。こういう人やゲイの格好のコメディアンが子供のいるお茶の間に登場する、日本はそういう国なのです。こういうのを見るのも聴くのも嫌だから、今年日本に帰ったときに俺はTVを見なかったのだ。
ボブが国を発つ前夜から当日は、すべてのシーンが美しかった。なにごとも起きなさが古い日本映画のようであった。空港に向かう車中で、去っていく東京を見るボブの顔つきがすごく柔和でいい。つかの間の思い出とその舞台となった街をいとおしむ顔。車が首都高に上がる。夜の首都高を走ったことなど数えるほどしかない俺も、懐かしさに胸が焦がれる。
たぶん俺は同じ顔になってスクリーンを見つめているのだろう。東京が暮れていく。街が美しく浮かび上がる。夜の光に浮かび上がる。
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■ 05/12/28(水) 12:45:02 □ ボクシングデイ・セール
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モールに買い物に行くとクリスマス前とほとんど同等に混んでいて、DVD-RWディスクを買いたかったのだがレジ前の長蛇の列にあきらめた。ボクシングデイセールというやつなのか、モールは当分大混雑が終わらないようだ。
戻ると同時にL・KD姉妹がやってきた。萌とKDはずっと英語で喋っている。もうこの段階になると日本語のキープアップの方が家庭では重要だと思われ、「家では日本語を喋ってよ、英語はみんな学校で喋ってるんだから」と俺とMが促すのだが、KDは嫌だという。子供同士で遊ぶときには、テンポがよくきっぱりとものが言える英語のほうを喋りたいらしい。微妙な子供心理なり。
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絵が好きで奇怪なモンスター絵を描いたりもする甥BT15歳がうちに泊まってるので、そういえば完璧に彼の趣味に合うではないかと気がついて、夜「ナウシカ」を見せた。字幕のデキがやはり悪いのだが(キキよりはマシ)、半分見たところでもう「こりゃ最高だ」とつぶやいて見入っている。よしよし。
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■ 05/12/29(木) 13:44:46 □ 萌体調急落
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朝からBTは、ナウシカのオームの細密画をかりかりと鉛筆で描いている。後からもう一度全篇を見直していた。よしよし、これでまた一人宮崎ファンが増えた。
俺は昨夜からのどが痛いのだが萌の体調もあまりよくなさそうで、それもあって午後は二人で静かにしていた。Mが戻る頃には萌は機嫌がよくなってくれたがHNをすすり始め、俺はそのあと飯を作って食ったらがっくり疲れた。風邪だ。
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■ 05/12/31(土) 14:43:43 □ ドリカムで日本音楽を思う
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萌、久々に熱が高くつらい風邪。昨夜は二度熱で目を覚まし、かなり大変であった。夜が明けて元気はあるのだが、熱が下がらない。夜疲れたらまたしんどくなりそう。
昨日今日と萌の世話をしていたので買い物にいけず、年越しも新年も何も食べ物がないということになってしまった。まあ仕方がない。あけましておめでとうと母さんに電話すると、キャベツがある限り最後はお好み焼きという手があるわよとサジェストをいただいたので、そのアイデアをいただこう。
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朝録画しといた「紅白歌合戦」を見ると、もうNHKが若年層に気を遣って面子を揃えすぎ、民放を見ていない人(俺みたいな境遇の人やじいさんばあさん)には出てくる人がまるで不明な状態になっている。名前も知らない人がレコード大賞やら北島三郎の対抗格になっているのには驚いた。別に知らなくてもなるほどと思わせてくれるならいいのだが、ごく普通の取り替え可能なポップスだしなあ。今年も早送りなしには決して見ていられないが、でもまあ去年よりは聞きたい歌が多かった。
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【個々の感想】
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森山直太朗:レコードで最高の演奏をしているバンドを見たかったのだが、レギュラーバンドは持たないのかカラオケ歌唱だったのであまり興味を持てなかっ
た。
平原綾香:喋るとけっこう現代っ子であれれと思うが、歌う姿は姫のようでよい。
スキマスイッチ:芸能界にフィットしそうな性格が歌と微妙に合わず、そこがいまいち好きになれない。
森山良子:企画ものを超え価値のある息子との共演だった。
倖田來未:レコード大賞? のあなたは誰?
氷川きよし:この人がジョークではなく本当に人気があるらしい国の不思議さよ。
ゴリエ:何者....と知りたい気持ちも別に湧いてこない。
一青窈:この人の声には1年かけて慣れ、今は気色よい。
松任谷由実:変わらぬヘナヘナ音程でありながら、横にいる上海超級技能歌手たちがただののど自慢の人たちに見えてしまう、横綱の存在感と声。
ドリカム:すべてのラッパーが打ちのめされるべき、鳥肌立つ音楽力。このバンドをトリにするという、日本にとって最善の決断がなぜできないのかNHK。
和田アキコ:なぜラップかは不明だが真剣でよかった。
中島美嘉:トリ前で北島三郎の対抗であるライブハウス歌手みたいなあなたは誰?
スマップ:木村氏を除きあんなに音痴なのに、こうもしつこく主役扱いで歌わされるのはつらかったろう。
司会:なにゆえにみのもんたがあんなに大物司会者になってるのだ。謎だ....。
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Dreams Come True は趣味に合う音楽じゃないのでちゃんと聴いたことはないのだが、飛び抜けたワールドクラスだと改めて思った。すべての音に丹精が込められ、
グラマラス米国ポップ臭も貧相Jポップ臭もないワールドミュージック的無国籍性を持っている。超絶技巧に(ほとんど)おぼれない吉田美和さんの美しい歌唱、そして「俺はこの音楽が好きなんだあああ!」と言ってるみたいなベースの人の顔がサイコーで、Mと萌にも見せてやった。萌は熱血アニメみたいなベースガイの顔と歌のかっこよさに大喜びで、皆でこれが見られてよかった。
アジアでは大物ミュージシャンというと、いまだに今日松任谷さんと共に歌ったようなのど自慢歌手しか出てこないわけで(「ポップジャム」等に出てくる韓国若手歌手も一様に「ゴスペルズ」みたいな70年代歌謡センス)、
60~70年代からすでにそうしたのど自慢性と決別したバンド・ミュージシャンを産出し続けているところが、日本が他のアジア諸国と異なっているところなのだと思う。
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さらに「紅白」とは関係ないが昔と比べて、音楽の周辺人材も聴衆も育っているのは明らかだ。たとえばサンボマスターなんていう規格外の才能が出てくれば、昔の Who みたいな無茶苦茶なミックス(ギターソロで他の音が聞こえなくなったりする)でレコードを作らせてやる物の分かったプロデューサーがちゃんと存在し、その音が熱狂を持って聴衆に迎えられるのである。健全なり。
サンボマスターみたいな「なんだこれは?」という画期的な音が、カナダで生活していてTVやラジオから聞こえてくることはない。たとえば小学生以上若年層に猛烈人気の Green Day も、歌詞はいいが音楽的にはびっくりするほど平凡なのである。日本は「紅白歌合戦」の 75% を占めるイモ音楽に満たされ、「マシュー南」や「ゴリエ」が氾濫して気恥ずかしい国だが、健全なロック桃源郷もそこにあるのであった。