2010/06/23

日記「ニッポン幸福フットボール」

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■10/06/15(火) □ 1日経って冷静に
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【ブラジル・北朝鮮】北朝鮮はよくやってるなあ。守備陣に落ち着きがあり、ボールの奪い方は日本よりも能動的で美しい。パスコースを読んで敏捷性を生かして奪い、相手が取り返しに来る瞬間逆を取って前へ進んでいく。日本のサッカーよりも速さと意外性がある。もちろん決定機までは作れないが、チョンテセはしっかりポストで働いている。後半彼に決定機が訪れますように。

 そして2点をきれいに取られ試合を決定されたものの、北朝鮮はなんとテセのポストから完璧な突破で1点を取ってみせた。えらい。テセはその後さらに何本も、ゴールまで届くはずもない距離からロングを打つ。持っていれば狩り取られる、味方を待つ時間もないストライカーの悲愴なロングシュートである。ゴールには届かないが、お前を応援する人々の胸にはその気持が届いているよ。えらい。カナダのTVは北朝鮮の努力を絶賛している。たしかに日本・カメルーンよりもはるかにいい試合でありました。カメルーン戦の日本よりも、この北朝鮮のほうが強いだろう。

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 日本の新聞マスコミは本田と岡田監督に対する賛辞で満ちているが、俺も攻撃力の低さに失望したカメルーン戦後1日経って、冷静になると希望が湧いてきた。岡田監督はここ1年馬鹿な過ちをしてきたが、ギリギリ手遅れにはならなかった。カメルーン戦は「守備重視路線転向初公式戦」だったのであり、守備にはまだ余裕があったのだから、あの守備組織をベースにオランダ戦でラインを上下し攻める時間を作り、攻撃陣を前に出しサポートするようチームが連動すれば攻撃力は確実に上げられる。たとえオランダには負けても経験を積み、サブ選手の力も活用しつつデンマーク戦に向かえば十分に戦えるだろう。相手はレゴしかないだろうともう、呑んでかかって。

 だいたい調子を取り戻しさえすれば、日本はデンマークとなら普通に勝負になるはずである。監督も時期も違うがアウェイでチェコにだってスイスにだって勝っている。デンマークと同じく欧州王者だったギリシャにも完勝している。それらの勝利がすべて監督や特定選手のおかげだったわけではないだろう。勝ったのは、技巧と知恵を凝らしてボールをつなぐという、日本のサッカー地力の結果だったはずである。

 中田や久保はいないし、俊輔も黄金世代ももう頼りにできないが、大久保や本田がいる。パスサッカー得意という持ち味に変わりはないのだ。デンマーク戦はもちろん、オランダにだって存分に抵抗できても不思議はないのである。

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■10/06/17(木) □ アルゼンチン・韓国
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 【アルゼンチン・韓国】うう。このアルゼンチンのパススピードの速さはなんだ。韓国は開始から5分以上ボールに触れない。これは韓国との実力差云々というよりも、アルゼンチンだけが異次元にいるという感じ。パスとランがスペインの 1.5 倍速いのだから、これはアルゼンチンのペースが落ちるまではどこの国でもどうしようもないのではと思う。日本が98年にやったアルゼンチンとは別物だ。日本がやったときは夏だったので、バティストゥータとかのろのろやってたからな。

 そしてなんと自殺点で失点。ちょっと普通では考えられないような角度の自殺点で、韓国は落ち着いているようでもアルゼンチンの速さに幻惑されていたのだろうか。常時気を張っているためときおり思考停止が訪れ、その隙に点が入ってしまうという感じか。4年前日本がブラジルにやられた後半に似ている。

 しかし韓国MFが素晴らしいミドルで逆襲。枠には行かなかったが、得点は決して不可能ではないぞと勇気付けるナイスなストライクだった。韓国が前半ボコボコにされながら後半ホンミョンボのミドルで追い上げた、94WC のドイツ戦を思い出すな。やられてもヘコタレないところが日本と違う。

 しかし韓国はスピード、フィジカル、技術ともアルゼンチンにとってちょうど頃合いの練習相手であるようで、メッシ、テベスを中心に華麗な美技が次々に炸裂している。このやられ放題は韓国のスタイル自体がスマートなサッカーに変わっているせいもありそうで、もっとガツガツファウル気味に止めていくのが持ち味のはずである。最近の韓国はこうなんだろうか。

 ―――うわ! 一矢報いた(笑)! ミスをかっさらってゴール。よし。ハーフタイム、マラドーナがゴリラみたいにチームを鼓舞して吠えながら歩いている(笑)。

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 【後半】―――どわー、韓国がカウンター炸裂で3対4から完璧な決定機を作り、シュートがわずかに外れる。うーん、すごい。完全に崩していた。ああいう高速大カウンターが日本にはできないんだよなあ。カウンターサッカーはよく批判されるが、こういうチェルシー的に全速で走りながらドリブルしパスをつなぐというのは簡単なことではないのである。ショートパスサッカーより高い個人能力が求められると思う。今の日本にはできない。中田と稲本の全盛期にできたかどうかというところだ。

 韓国は強い。02、06年もその強さに疑いはないと思ったが(02年も成績は誤審ゆえの2階級アップだったが、強かったのは事実)、ホームアドバンテージも夏の暑さもない中でのこの試合を見れば、もはや疑念の余地はないよな。02年以降の日本と韓国のこの違いは自信とマインドセットにあるんだろうか。「ヒディングみたいな勝負師監督を使うとあとには何も残らない」なんて日本の通はよく言うが、その後の海外で活躍する選手の多さ、06、10年の韓国チームの強さを見れば、負け惜しみとしか言いようがない。サッカーでは自信も実力のうちなのだろう。

 しかし終盤はメッシ劇場となり、韓国の脚も止まり反撃できなくなり4-1で終了。一矢報いただけに終わった。しかしこうしたすべての努力が、韓国サッカーの財産となっていくだろう。アルゼンチンより弱い相手には負けないぞというまた1つの自信として。

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■10/06/19(土) □ ニッポン幸福フットボール
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 【オランダ・日本】ああ、スタメンが変わってない。全員同じだ。こういうところが岡田監督は頑固で小心者だなあと思う。フレッシュなメンバーによるより能動的な展開を期待した気持ちが少し下がる。

 序盤、やっぱおとといのアルゼンチンに比べたらオランダにさほど驚異のパスワークはないが、かなり強いプレスをかけても乱れそうで乱れないところはさすがである。

10分、松井のドリブルで時間を作り、速いショートパスを数本つないで長友のシュートまで行く。これは初戦にはなかったきれいで速いパス回しで、試合を通じてこれができれば十分攻められるが、保持率はなかなか上がらない。松井はカメルーン戦が自信になっているようで、DFの目前で大胆にボールを運んでいる。

 18分、日本はボールが取れないが、ダッチのペースも上がらずカメルーン戦に続きスローなゲームになる。「日本はダッチとどう戦ったらいいかわかっており、実にうまくやっている」とアナ。俺もそう思う。パスをカットしたりタックルでボールを狩るという目に見えるハードワークはないが、パスコースを限定し、少しでもパスやトラップがブレたら奪うという高効率連動性で、エネルギーを浪費することなく相手の攻撃を無効化している。このカナダCBCの英国人(?)アナは本当によくサッカーを分かっていて好ましい。

 ヴァンペルシーが何度も腕で中澤を突き飛ばす。あれはカードだろう。アナも同意見。序盤接触で駒野が顔を蹴られたし、オランダは密集地帯で脚を蹴り上げ競り合いでは腕を多用し、じれたらラフな試合を展開しそうな気配がある。レフがのあのへんをきっちり取ってほしい。

 27分、ダッチが一向にペースを上げてこない。けっこう暑いのかもしれない。大久保が個人技でサイドを突破し一瞬観衆が湧くが次につながる前に潰される。あの大久保の力をもっと決定的なシーンで使いたいのだが。遠藤の厳しい表情が映る。彼の調子は上がっているようで、今日は攻撃によく絡んでいる。

37分、松井のカットから駒野が駆け上がり、先に到着した本田遠藤が攻めあぐねて後から到着した松井のショット。弱い。一番先に触った本田が、ダッチ守備が揃う前にトライすべきだった。あそこがやはり本職FWじゃない彼の弱みで、狭く時間がないところでは勝負できない。しかし日本が人数をかけ攻め始め、ややオープンになりようやく双方の攻め合いが始まる。残り5分、ラインを上げて日本が攻める。本田が持ち上がるがここでも右に突破できない弱点が出て横に流し大久保に渡らず。前半終了。

 悪くない。イイといっても過言ではない。完全同一メンバーにはやや失望したが、守備重視路線転向メンバー2試合固定でたしかに連携が育ち、流動的に攻撃にいけるようになっている。「日本がプレスで非常に頑張っており、コンパクトさを保ってスペースを与えないことで、ダッチらしい美しいフットボールを見事にキャンセルしている」と元カナダ監督のレナドゥージがハーフタイム解説。アルゼンチンはスペースがなくても美しいフットボールをやってしまうのだが、ダッチはそこまですごくはないということは言える。

 怖いのはフィジカルに来られることだ。ダッチが後半どれだけフィジカル勝負に来るか、それに耐えて反撃できるか。こういうバチバチとした当たりのある試合で、やはり俊輔が出るというのは考えられないな。岡田監督が「戦える選手、戦えない選手」という言わずもがなの発言をしてファンの気を害したが(「お前がその23人を選んだろう」と誰もが突っ込まずにおれない)、こういう当たりのある中で前に進んでいけるかどうかということを言いたかったんだろう。腕を使う相手が多いゆえ、顎を骨折したばかりの憲剛も使いにくいかもしれない。

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 【後半】チームが落ち着く前にダッチの攻撃。ヴァンペルシーらがロングボールで裏を取る動きも始まった。引くな、頑張れ。「闘莉王が日本のバックで大きな役割を果たしている」とアナ。

 ダッチが圧力を上げ日本はしばらく自陣に押し込まれ、ついにスナイデルのミドルが決まる。さほど危険なシーンは許してなかったのだが、徐々にクリアの飛距離が縮まりマークが間に合わなくなりフリーで打たせてしまった。インターナショナルレベルのGKならば弾くべきだったろうとアナ。あれはジャブラニのせいもあるんだろうか。ま、この相手にはどんな形であれ1点取られるのは仕方がない。引くな、頑張れ。

 直後に大久保のドリブルシュート、よし。いいぞ。ああして最高級の敵が目一杯つぶしに来ても、大久保はドリブルで前を向きシュートまで持ち込む力がある。これまで日本がWCに送った最上のアタッカーである。しかしいかんせんこのポジションでは起動開始が後ろすぎ、打ってもゴールまで距離がありすぎる。もっと前で勝負を仕掛けたい。頼むぞ遠藤たち。フットボール目利きを言葉の端々から感じさせるこのCBCアナは日本を、「more than capable(有能以上)」と評している。つまり「なかなかヤルなというだけには留まらないチーム」であるということだ。フェアである。

 続いて遠藤が上がりまた大久保シュート。弱い。日本のショートパス攻勢が続く。コーナーで闘莉王が上がる。弾かれる。FKから阿部のヘッド。弱い。ダッチを焦らせるほど決定的なシーンは作れないが、落ち着いて非常に日本らしいクレバーなパスサッカーが続く。―――これだよ。そうだよ。98年からこの方ずっと、俺はこれをWCで見たかったのだ。ニッポン幸福フットボール。いいぞ。すごくいい。

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 ―――え、ここで俊輔が入るとアナが。どこに? 松井か。そうか、このチームで松井の位置はフリーマンだもんな。しかしゆるゆるだったカメルーン戦では松井と俊輔を替えてもOKだと俺も思ったが、この試合で使えるんだろうか。こうしたタフな試合で中村が活躍したことなど、怪我を抜きにしても見たことがないのである。

 68分、一進一退双方決め手がない展開の中、大久保→駒野ときれいに崩し、ゴール前の本田につながりかける。惜しい。ダッチの脚が止まり圧力がばったり減ったせいもあり、日本のプレスとショートパスが決まる。この圧力低下を見ての俊輔起用だろうが、これが吉と出れば岡田監督は俺たち素人が思うよりも冴えているわけだけれど、しかし。センターサークル付近でゆっくりとボールを転がしゲームをつくろうとする俊輔は、まるで1人真夏のアジアカップに出ているかのようだ。これはWCで、今は負けてるんだぞ。

 本田も今日はまったく前に持っていけずリズムを作れないので、フレッシュな脚に交代させてもらいたい。憲剛を出してくれ。俊輔が使えるなら憲剛はなおさら問題ないだろう―――と思っていると大久保→岡崎、長谷部→玉田。憲剛ではなく玉田か。まあよし、玉田行け!

 77分、俊輔がまたもやセンターサークルでボールを持ち、ゆっくり運んでいる間にかっさらわれカウンターを受ける。これはもう体調はともかく、この試合に必要な思考&プレースピードがまるでないではないか。俺たちアンチ俊輔がイメージする通りのバッド俊輔がそこにいる。今大会中にカンが戻るのかわからないが、それを確かめるために試合に出す余裕などないわけで、今後出番はないまま終わるだろう。日本が生んだ最大級の才能が結局WCで何もできずに終わるのは悲しいことだが。

 81分、ついに闘莉王が上がる。彼はこの2試合DFとして最高の働きをしている。ダッチを相手にヘッドで一切負けていない。これで点まで取ったらスーパーマンである。84分、チーム全体前がかりで中澤が裏を取られ完璧なカウンターを食らうもGKが防ぐ。続けてセンターでボールを取られもう一度大カウンター、セーブ。あとで確認すると、潰されボールを取られたのはまた俊輔だった(ため息)。完全にカモにされている。中盤センターに彼がいて、よく失点せず済んだものである。打ったのがロッベンでなくアフェライで助かった。

 88分、岡崎が闘莉王から流されたボールに食らいつき打つもネット。カメルーン戦に続き、あれが枠に行けば奴はほんとに日本のエースになれるのだが。反応し難しい姿勢でミートするのはえらい、それが枠に行けば一流、入ればスーパーなのだがというところで試合終了。

 日本はまだあのニッポン幸福フットボール時間帯を数えるほどの時間しか作れないのだから、点が取れる可能性は低かった。しかし最高だった。これまで見た日本のWC試合で最高だった。そしてこのチームはまだよくなる。もう1試合、ドローを取れば2試合進化を続けられるのである。

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 カメルーン戦を見るとデンマークは強いという感じは全くしないが、キレキレのカメルーンが1点しか取れなかったのだから、日本にとっても得点はそう簡単ではないかもしれない。

 しかしそこを「ニッポン幸福フットボール」が崩すというシーンが見られれば、俺が15年間見つめてきた日本代表サッカーへの思いが報われる。02年を含めてもWCではこれまで表現できなかった日本サッカーのインテリジェンスと力を、今日のチームは見せてくれたのだ。名波が、中田が、そしてドイツで藻屑と消えた黄金世代が表現しきれなかった日本らしいサッカーが、短時間ではあるがついにできた。それは世界を驚かすというほどシャイニーで立派なものではないけれど、日本は実は身の程をわきまえているのでそれでいいのである。99年のワールドユースで感じたものに似た、快い満足感の得られたオランダ戦であった。デンマーク戦が楽しみで仕方がない。

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