2026/09/06

【2026イングランド旅行記⑤】名画とガラス建築の二日間:ザ・ナショナル・ギャラリー/Kew Gardens

「写し取る衝動-ザ・ナショナルギャラリー」「ロンドン建築史を知るKew Gardens」

■6月8日          写し取る衝動-ザ・ナショナルギャラリー

ロンドン美術館巡りは限りなく、本日はザ・ナショナルミュージアム。英国最大の絵画美術館である。

V&A同様、最初は宗教画ばかりで、正直よく分からない。宗教画というか、イングランドで俺が圧倒されているキリスト教芸術全体とギリシャ・ローマ神話、そのモチーフである聖だれそれの生誕だとか受難とか、ソドムとゴモラだとか、説明を読んでもピンとこないし、インスピレーションも湧かない。これだけの芸術パワーをそうした宗教と神話に盛り込んでいた昔、中世というものが本当に分からないのだ。

いったんトラファルガー広場に出てきて、Mが作ってきたサンドイッチとおにぎりでランチ。ロンドンの国営博物館はどこも無料だが、館内飲食は高い。軽食で$80とか簡単に飛ぶのでとても連日利用はできない。イギリス観光はとにかくお金がかかる。 pic.x.com/xt4JMItiv9

Mは子供の頃、このライオンにまたがり写真を撮ったことがあるそうだ。昔はルールがゆるかったのでストーンヘンジにも乗ったことがあるという。ムスメ萌にとっての日本と同じことで、イングランドはMにとって、親の里帰りでついていく楽しい思い出の国だったんだなと思う。子供のMの写真とか見ると笑っちゃうくらいカワイイのだが、あの子がこの広場でライオンに乗ってたんだなと絵が浮かぶ。

ランチで仕切り直し、今日は途中からスパートして全展示室を1日で回れた。ここから先はすごかった。名のある画家の絵を山ほど見た。そして名を知らぬ画家のインクレディブルな名品も無数にあった。この女性の自画像がピカイチだった。ヴィジェ=ルブランの自画像。モデルである自分の美しさがそのまま写し取られている。 pic.x.com/R1Tip8vcMt 

18世末のヨーロッパで、マリー・アントワネットをはじめとする王侯貴族から絶大な人気を誇ったスター画家だったのだそうだ。

宗教画・神話画の中ではルーベンスがすごかった。とにかくうまく、勢いがある。『パリスの審判』など。昔は女性の裸の絵が多い。奥様によれば、「みな裸の絵がほしいが体面が悪いので、聖書や神話の裸エピソードを選んで描かせた」のだという。

どこの美術館を見ても、中世までは宗教画と貴族のハイソな暮らしの絵ばかりである。教会と貴族が画家のパトロンだったのだ。レンブラントくらいから教会の権威、購買力が落ち、風景や市井の人々が描かれるようになったのだそうだ。

ルーベンスの素晴らしい風景画に、「風景は自分の楽しみのために描き自宅に飾っていた」と説明があった。 pic.x.com/YZr5L0C2C5



ベラスケス、レンブラントと時代が進み、ゴッホ、ロートレック、ゴヤ、ゴーギャン、モネといった近代になると描かれる人々が市井の人たちとなり、ただただ絵として素晴らしい。ドガの踊り子、入浴する女性、髪をすく女は素晴らしいとしか言いようがない。こういうものが見たかった。



モネもすごかった。『サン・ラザール駅』! モネって睡蓮だけじゃなかったんだ(笑)。彼は睡蓮でも都市でも光を描いていたんだなと分かる。カメラで風景を撮るのとおんなじだ。

ほんとドガやモネを見ると、ロンドンの町や人々の美しさを俺がカメラでスナップしまくっているのと同じように、彼らは「このシーンを写し取りたい」と絵を描いていたんだなとよく分かるのである。そりゃ描きたくなるよね。俺も撮りたくなるもの。「髪をすく女」は赤のモノクロームだ。ラザール駅は逆光だ。

スクールトリップで来てる子供らがかわいかった。引率の美術教師なのか当館のガイドなのか話が超うまい先生が、話術で子供らを沸かせる。黒人とムスリムの子が多い。

イギリスを旅していると、アジア人が非常に少ないことに驚く。ヨークシャーでは観光地ヨークで中国のツアーグループに出会うまで、俺が唯一のアジア人だった。バーベキューに招かれた家では「日本人と会って話すのは初めてだ」と言われた。

ロンドンまで降りてきても、まだ本当に白人ばかりだなと思う。カナダアメリカよりずっとホワイトな国なのだ。黒人よりもムスリムが多いのは、大戦後の労働力不足を補った旧英領パキスタン、バングラデシュ系だろうか。

  ◇   ◇  ◇  ◇  

そろそろ展示も終わりという小品が飾られた回廊にある、フレミッシュという画家のイントレスティングな絵に、張り付いてガン見している女性がいた。彼女のおかげで俺は全体像が見れず、写真も撮りたかったので俺は10分後に再訪したが、彼女はまだ張り付いていた。まあ写真を撮るより見ることのほうが大切だけども、すごいな。


そして夜写真を眺めていて気がついたが、そのセクションの1枚は、なんとフェルメールだった。「ヴァージナルの前に座る女」だそうだ。――えええ! 「Vermeer、ヴァーミアーか、知らない名だがいい絵だなあ…」と思って写真を撮ったのに、あれでフェルメールって読むのかよw ホールではなく小品が並ぶ「遠近法の部屋」という小部屋だったし、立ち止まったり、フレミッシュみたいに釘付けな人もいなかったよ。フェルメールが超人気なのは日本だけなの? 

(後日山田五郎さんのYoutubeを見ると、「欧州ではフェルメールに行列はできない」と彼も言ってました)

というわけで、いやー隅々までよかった。さすがは大英帝国の、「ザ」・ナショナル・ギャラリーであった。

■6月9日                 ロンドン建築史を知るKew Gardens


本日はガーデニング好きのMがかねてから憧れてたという、18世紀からの歴史を持つ世界最大級の植物園 Kew Gardens へ。ロンドンともなると、世界最古級最大級が目白押しだ。

ロンドンはどこへ行くにも交通が便利だ。宿の駅アールズコートからKew Gardensまでは地下鉄一本で行けるし、他の観光地もだいたいバスか地下鉄1本で着く。しかもロンドンの交通機関はクレジットカードをタップするだけで乗れる。Suicaが不要で、買い物も全部タップで済むから現金も使わず、両替の必要もない。旅行者にとってはこれが本当にありがたい。

トーキョーインバウンドも大騒ぎだが、物価安く食べ物がうまいだけで、ロンドンほど観光至便で見どころだらけの町ではないだろう。



そしてロンドンの駅は美しい。アールズコートは地下鉄だが地上の光が差しており、写真を撮りたくなる。モダンアートですよね。

電車と徒歩で1時間もかからずKew Gardens到着。おおこれか、19世紀にできた大温室。すごいな。Mのうれしそうな顔。この顔を見るために英国を旅しているようなものだ。

 

1848年(江戸時代幕末だ!)にできた壮大なドームたちは、世界中の植民地から採集してきた熱帯の貴重な植物を、ロンドンの寒い気候で育てるために作られた巨大温室だそう。あのV&Aといい、なにもかもすごいねえ栄光の大英帝国ビクトリア期。

大温室内は湯気がもうもうと立ち込め、メガネやカメラレンズがたちまち曇りヤバいので、カメラはバッグにしまいPixelで撮っていた。露出をガツッと下げて撮り後編集で上げてやると、広角なのも手伝ってトイカメラ的な面白い絵になってくれる。

Kew Gardensは地下に蒸気パイプを張り巡らせたスチームメカニクスの傑作でもあったそう。上部まで上がるとスチームこけがこびりついた鉄骨がよく見える。鉄とガラスと蒸気でできた、スチームパンクだったのだ。

  ◇  ◇  ◇

二つ目の大温室はドライなサボテン温室になっていた。

 

生徒全員一眼カメラを持ったクラスがおり、写真撮影も技能カリキュラムのうちなのかもしれない。 スチームのない箇所では俺も当然一眼で撮る。やっぱり一眼フォトは美しい。 pic.x.com/11KVhMkPzx

Kew Gardensはロンドンのスクールトリップ定番らしく、5校くらいの小中高キッズに取り囲まれた。人種さまざま入り混じり、実にみなかわいい。イングランドも制服があるのである。というか英国はなんと小学校から制服がある、制服大国なのだ。知らなかった。

 

Kew Gardensには精神を病んだ王ジョージ3世が1788年頃幽閉されたという別荘もあった。若い案内嬢が、王の悲劇を語ってくれる。

なぜかチャイニーズのタワーもある。近くのヒースロー空港から飛び立つ飛行機が、上空を何度も通過していた。 pic.x.com/qtHq5UG6Or 





三つ目、最後の大温室へ。これもスペクタキュラーな眺めだ。

 

植物生い茂るスペクタキュラーな3つの大温室と、カメラやノートを抱えたスチューデントたちがなんとも良い光景だなあと、写真を撮っていて楽しかった。気がつけばロンドンで一番いい写真が撮れていた。他はずっとインドア博物館だったので。

しかし大温室と子供らの他に、これといった見どころはない。世界最高のイングリッシュガーデンがあるのだろうと思ったが、ない。この樹のように場内のすべての樹木が剪定で美しく整えられているのは分かったが、目を見張るような巨木があるわけではない。温室内の珍しい植物は、一般人には分からない。

石切場の高低差を活かした美しい日本庭園と、豪華なイングリッシュガーデンを備えたBCビクトリアのブッチャートガーデンのほうが、見せる施設としては面白く充足感がある。ここはそういう見せるエンタメ施設ではなく、保存と研究のための植物園なのだろう。そしてブッチャートガーデンは園芸植物園の最高峰なのだろう。

超広大な場内に散らばる見どころをつなぐ最適ルートが特になく、2キロ歩いてA地点、戻って迂回しB地点と歩きに重複があるのがキツかった。園内だけで12キロ歩いていた。ひたすら歩いて一日が終わった。

ロンドン在住で時間があり、20ドルくらいで入れるなら週末の一日を過ごす価値はあるという施設だったなと思う。一人£25/50ドルはあまりに高い。クーポンを探して37ドルで入ったとはいえ。イギリスは観光施設の価格が遠慮なく高いのである。ロンドンへ行くなら他に1日を使うべき場所はあったなと思う。


しかし後で知ったが、Kew Gardensの大温室は、1851年ロンドン万博の「鉄とガラスの画期的建築・水晶宮クリスタル・パレス(V&Aに模型の展示があった)」のプロトタイプとなったそうだ。

さらにさらに俺はパディトン駅に着いたときすごいなこの駅と写真を撮ってたのだが、あの駅舎もKew Gardensの鉄とガラスの建築学派による仕事だったのだ。すべてがつながっていく。ゾクゾクする。それを知ると、Kew Gardensを見たことのありがたみが改めて湧いてくる。イングランドは知れば知るほど、すごい旅行をしたんだなと感謝の念が湧いてくるのである。

 

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