2010/02/24

日記「新興オリンピック種目は皆ジョーク」

「史上最悪のオリンピック?」「まだ誰も見たことがないもの」「ストイコの戦評」「オリンピックの北米化」ほか。

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■10/02/16(火) □ 「史上最悪のオリンピック?」
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 【男子フィギュア】で高橋が完璧な演技でショートプログラム暫定2位、織田が余裕のミスなし演技で暫定3位を抑えてみせた。あとで米選手のこれまた完璧な演技に2位を奪われたが、高橋と織田の演技前後の落ち着いた様子を見ると、上村さんの渾身の滑りから始まった力を出し切るいい流れが日本にあるように感じる。今日も女子 500m スケートで金を取った新興スピードスケート国韓国の怒涛の勢いにはかなわないが。

 最後の長野スケーター岡崎さんは、スタートから最後のコーナーまでは見事な滑りだったが、直線でぴたっと止まりぶち抜かれてしまった。お疲れさまでした。

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 英ガーディアン紙のコラムニストが、バンクーバーオリンピックを「史上最悪のオリンピック」と言ってるそうである。カナダのニュースは当然動揺を隠せない。練習での死亡事故、気温が高すぎ雨中で行われる競技、交通の悪さ、段取りの悪さ(遅延、キャンセル)といったあたりがヤリ玉に上がっているらしい。

 しかし死亡事故はともかくある程度のゴタゴタはいつだってあるわけで、史上最悪だなんて下衆なことを言うその神経が分からない。長野のときはどこかの英文コラムが「長野の町はウィンターオリンピック史上最もアグリイ」に近いことを書いていたし、「サマランチが『史上最高の冬季オリンピックでした』という閉幕決まり文句を言わなかった」と揶揄もしていた。こういうところは欧米メディアの、批評のミノをかぶった底意地の悪さとしか感じられない。

 お前らこれからアフリカでWCをやるんだぞ。段取りの悪さくらいでケチなぞつけてる場合か。おもてなしをありがたくちょうだいする心を持たない客は、段取りのつたないホストより見苦しい。

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■10/02/17(水) □ ショートトラックは面白いけれど
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 【ショートトラック女子 500m】 で、4人の決勝で最外のイタリーの子がスタート直後にアグレッシブ過ぎる斜行でカナダ選手を2人なぎ倒した。競馬なら失格だがこの競技では1コーナーまではルール上単にリスタートとなるという。そしてこのイタリー娘は2回目もまったく同じ斜行を敢行し、転びたくないので本能的に足を引いたカナダ選手1名の前に入ってしまったのである。斜行して同走者を転ばしても罰則がつかないのだから、なりふり構わず勝ちたい奴はやるよな。斜行以外に外枠の選手が勝負に出る道はないわけだし。

 3位に上がったイタリー娘はさらに2位のカナダ選手のインをスキあらば接触覚悟で飛び込む気ありありなので、カナダ選手はインベタで回らねばならず、最速ラインを取れない。もともと1位の中国選手とは力の差もあるのだろうが、そのうえラインが苦しいのでコーナーの立ち上がりごとに大きな差がつき、あっという間に差は広がりレースは終わってしまった。競輪でこんなレースをやったら、2位カナダ選手の単勝を買ってた客が怒るだろうな。たとえ勝てなくてもトップを追えよと。

 このショートトラックの抜きつ抜かれつは面白い。こういう紙一重のオーバーテイクが楽しめるのは他にはバイクレースしかないだろう。しかし 500m なんてどうやっても短すぎるのである。スタートダッシュで勝敗がほぼ決まるから内外で有利不利がありすぎるし、抜かれたらリカバーする時間などないから、こうして前を追うより順位を守るレースというものができてしまう。人数を絞らねば1列でスタートできないから4人中1人だけメダルを取れないという酷な仕様にもなる。こういう種目ならスプリント能力だけでは勝つのが不可能な距離(1000m 以上?)でなければフェアな競技にならないのは明らかではないか。まじめに考えてもらいたい。

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■10/02/18(木) □ まだ誰も見たことがないもの
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 【男子フィギュアスケート・フリー】どんどこどんどことジャンプで下位が皆転んでいく。織田がジャンプが安定し、軽快な体を生かした動きが小気味よく素晴らしかったのだが、途中でジャンプを失敗しグキっとなってしまった。あ、捻挫かと思ったら、なんと靴ひも切れ。これで得点マイナスとなり、それがなければ5位以上だったろう。惜しい。音楽「街の灯」もよかったが、チャップリン/エノケン路線のコミカルな動きはちょっと狙いすぎた感もある。男女ともスケートでコミカルなことをすると見てて気恥ずかしい気がする。

 高橋は最初のジャンプを失敗し転倒。しかしその後の滑りはまったく素晴らしかった。ジャンプは織田の方がうまいと思うが、この人はスケートと体の使い方が美しい。「ジェルソミーナ」という音楽の使い方も見事で、すべての技が完璧だったが長い手足を持て余し退屈だったライサチェクよりもはるかによかったし、観衆を惹き込んでいた。しかし高橋はジャンプでずいぶんマイナスがあるので、ポイントで負けるのは致し方なし。

 でアメリカのウェアという選手がこれまたジャンプを全部完璧に決める。滑りはライサチェク同様退屈なのだが、ウケてるからこれでも高橋より上に来ちまうのかねと萌とハラハラ見ていると、今時はスケートジャッジの目も節穴ではなく5位。これで高橋のメダルが確定。最後のプルシェンコはおとといもなんか揺れてるじゃん、なんでそんなにすごい点が出るのかと思ったが今日も明らかに調子が悪く、ジャンプ着地がことごとく揺れる。トレードマークらしい傲慢キング演技を続けるが、技に切れがないので傲慢ジェスチャーにも客がちっとも湧かない。これでもキングだから点が出るのかねと思ったら今時はジャッジも先入観バカではなく、2位となった。高橋納得の銅メダルである。えらい。

 滑りと舞いに関しては織田も本当によかった。総身にコントロールが及ばず切れがないライサチェクたちよりも、コンパクトなボディパーツを存分に振り回せる高橋や織田の方が氷上の表現には向いてるんじゃないかとも思う試合だった。高橋と織田の体の動きの先にビールマンスピンやイナバウアーのような、まだ誰も見たことがないものがいつか見える気がした。

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■10/02/19(金) □ ストイコの戦評
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 長野の銀メダリスト、エルビス・ストイコが昨夜のフィギュアを、「4回転を飛ばずに金なんて馬鹿げてる。ジュニアでもできる技ばかりじゃ客にはつまらない」と批判している。「金はミスはあってもプルシェンコ。4回転にトライした高橋は素晴らしかった、ライサチェクよりも上とされるべき」。彼は小塚の4回転ジャンプも激賞している。高橋は別のカナダコラムニストにも最高だった、最も観客を湧かせたと評されている。

 しかしライサチェクが退屈だったことには同意するが、難しいジャンプが必須となりボタボタと選手が次々に転んでいくというシステムは、それはそれで嫌である。今回も本当に転倒が多かったので、かわいそうで見るに耐えんとMはTVを離れていたしな。

 ストイコが現役時4回転を決めても、そのさらに前に伊藤みどりさんがトリプルアクセル(?)を跳んでも「芸術点」でライバルに負け、当時はスポーツ的感動が「芸術点」の下に置かれるシステムにアンフェアさを強く感じたが、今回はそれとは違うと思う。今回のプルシェンコの滑りに、ストイコ・伊藤のような「芸術点」を上回ろうというアスリート的気迫と説得力はなかったし、ライサチェクに高い芸術性もなかった。ただただ難度×成功度の単純計算でライサチェクが2人を上回ったという、やや不調だった競技結果なのだと思う。

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■10/02/20(土) □ ジャンプ・ラージヒル
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 【ジャンプ・ラージヒル】昨日の予選で葛西たちが飛び過ぎたのでスタート点が下がり、低調な記録が続く。葛西と伊東もK点に届かない。昨日の結果から 10 位以内くらいは狙えるのかと思ったが、2人にとって昨日の高さが物理&フィーリング的にスイートスポットだったのだろうか。しかしあのままの条件で上位が飛んでいたら、それは間違いなく危険だったろうから致し方ない。

 昨日と今日のこの大きな違いを見ると、日本人ジャンプ選手はスイートスポットが非常に狭いようだ。欧州系よりも筋力が弱い分、すべてのスポットがぴたりと合わないと遠くへ飛べず、98 年以後のルールではそのスイートスポットが極端に狭く弱くなってしまったということなのだろうか。日本選手が勝てなくなった理由は科学的にも謎なのだろうが(科学的にアジア人不利とはっきり証明できるならルールが改正されるだろう)、返す返すもルール改変が残念である。

 2本目、さらにスタート位置が下げられたが伊東がいい踏み切りで 128m を飛んだ。速度は落ちても日本人にはこっちのスタート位置のほうがスイートスポットに近いらしい。難しいものである。葛西も 135m。見事。これは両者とも、少なくとも1本は力を出し切った感があるだろう。葛西は2本目の飛距離はアマンからわずか 3m 差の3位タイに相当し、1本目がもう少しまともに飛べていればメダルの可能性すらあったかもしれない。お疲れ様でした。

 しかし今回のオリンピックは、カナダTV観戦者には最高だな。ジャンプなんかカナダ選手は上位にきっこないのにちゃんと全編放送してくれる。こんなのはカナダに移住後 15 年余のオリンピックで初めてだ。地元開催以外でもいつもこれくらいやってくれないかな。

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 【男子ショートトラック】1000m 決勝、人気のあるカナダの兄弟、コリア2名、悪名高いオーノと面子が揃って超盛り上がったのだが、結局コリアとオーノにやられてしまい、カナダ兄弟は完敗。会場とカナダお茶の間がとことんしょぼんとする結果となった。TVアナは、「この種目はコリアのものだ。どうやっても勝てない」とあきらめコメント。実際中韓以外はやる気をなくすような結果が続いている。長野の頃は日本も強かったはずだが、なんで日本だけいなくなってしまったのかしら。

 「五輪の強化費は韓国がダントツ」という話を聞くと、おそらくそうなんだろうなあとは思うが、しかし競技自体の歴史が浅いショートトラックなら金をかければ強くなるような気がするが、スピードスケートやフィギュアスケートは競技環境や指導陣が整った上で個人の資質がモノを言うような気がする。Jリーグで韓国人ストライカーが常に幅をきかすように、どこかにあるその違いがなんなのか分からないし、悔しい。

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■10/02/21(日) □ オリンピックの北米化
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 今日は【スキークロス】というものをやっている。こないだのスノボクロスのコースをスキーで滑るというもので、スキーでもこういう BMX 風人工コースでは体が浮いてしまい、全然スピードが出ないのだと分かる。クロカンスキーの下りと大差ない遅さである。スノボクロス同様やってる方は楽しいだろうが、これに出るのは一般スキー競技でコンペティティブなレベルに到達できない人々だろうから(※)、一瞬の完璧さに人生をかけたスキースケートその他のトラディショナルな競技と同じメダルがもらえるというのは理不尽だと感じざるを得ない。
(※)事実カナダ女子チームには、アルペンで振るわずスキークロスでもやってみたらどうだとコーチにいわれ、スキークロス大会当日に現地に飛び初めてのエントリーで2位となり、以後スキークロスに衣替えした選手がいると判明。そういう話を聞いてしらけずにこれを真剣なスポーツとして見れる人がいるのだろうか。

 これを見てつくづく理解したが、つまりオリンピック/スキー協会は北米で人気のあるスーパークロス(モトクロス)/BMX を雪上でやりたいわけだ。「バンクーバーオリンピックは NASCAR レースみたいなチープスリルを追い求めている」と批判されているがその通りで、これは見た目にエキサイティングな抜きつ抜かれつとクラッシュが楽しめればOKという北米モータースポーツだよな。

 オリンピックスポーツは「究極」というものと密接に関わっているべきで、これ以上のものはないというものを見せてもらいたい。スキーのアルペンは「この山を彼らよりも速く降りられる者はいない」と素直に思えるし、モーグルもあの坂をモーグル選手以上に速くきれいに降りられる者はないだろう(コブさばきだけでは競技として単調なのでジャンプをつけるのも納得できる)。しかしスノボ競技はスキークロスを見れば明瞭に分かる通り、このコースはスノボの性能がフルに出るように作ってあるが、それでもスキーの方が 10 秒も速いのだ。遅いスノボで競争するなら俺が一番という人々や、従来のスキー競技では勝てない人々のために、オリンピック種目を作る意義があるのだろうか。その競技内で世界選手権をやる分にはまったく完璧に文句ないが、オリンピックは別だろう。

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■10/02/22(月) □ 最後の長野ベテラン
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 【ジャンプ団体】葛西が台につくたびに、「この人はすごいんだ、∨ジャンプのパイオニアの1人で、昔から僕のヒーローでいまだにチャレンジしている」と、ジャンプ経験者らしいカナダTV解説者の声に熱がこもる。世界の一線からもう10年以上落ちていても、まだ日本のジャンパーは尊敬を受けているのだとわかり胸が暖かくなる。ここまで来れなかった他の長野ベテランたちのためにも頑張ってくれ。

 2本目。これが葛西の、長野ベテランの最後の最後の1本だろう。渾身のやつを決めてくれ。―――140m、素晴らしい。これから上位4チームが飛ぶので3位にはとても届かないだろうが、葛西のオリンピック・ジャンプは最後の3本すべてが素晴らしかったと、誰の記憶にも残るだろう。

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■10/02/23(火) □ 新興オリンピック種目は皆ジョーク
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 ノルディック複合が見たいのだが、カーリング2つと女子スキークロスでチャンネルがふさがっている。カーリングは予選だけで9試合もあるそうで、いくらなんでもオリンピック放送枠の偏りではないか。他にこんなに長時間放送される競技はないだろう。こうして自国チームの全試合(2時間半?)を参加各国が放映してるのだろうか。

 日本で大騒ぎになっているらしいカーリングの英国選手がいまプレイしている。ごく普通のきれいな子だが、ああしたきれいな子が人目を気にせず真剣な顔で物事に打ち込む様子はなかなか見ることはなく新鮮だという意味で、日本チームのあの子同様人気になってるのかなと思う。

 その裏では【大回転】をやっており、これはやはり最高。やっぱスキーの王道はステンマルクの昔から回転/大回転だよなと思う。これぞ問答無用で世界最高峰というスピードとターンが味わえ、バイクレースのように実に気持ちがいい。ヨーロッパじゃダウンヒルが英雄の競技だとして人気だというが、あれはスゴイけれどあのスピードと雪面の硬さではとにかく板をワイドに開きコースアウトを避けるのに必死というスキーヤーの様相となり、美しくはないのである。

 【スキークロス】は後半みぞれでコースがスーパーヘビーとなり、まるでスキーが滑らず全員クロカンスキーのようにストックで漕ぎながら進むという滑稽な競技になった。人工的に作った急造競技だからテストが足りず、気温上昇という予定外のファクターが入るとこうして台無しになってしまう。この条件でスノボが滑ったらストックで漕げないからまじで止まるんじゃないか? と思っていると、決勝で1人の選手がほんとに最初のジャンプ台を超えられず止まってしまった。スキー競技で転倒以外で止まるというのは、これはもう前代未聞ではないだろうか。新興オリンピック種目はほんとに皆ジョークである。

 と思ったら夜うちの奥さんがこれを見て面白いと大喜びしている。君ね、カナダのある選手はスキーじゃ一流になれずぶっつけでこれの代表になったのだよと教え、「そんな競技レベルのものをオリンピックにする必要はないと思わないか」と説くと、「でもエキサイティングで楽しいし人気があるならいいじゃない」と全然わかってもらえない。「しかし見ろよ、スキー競技なのに止まっちゃってるんだぜ。ホラ!」「クロカンスキーだって漕がなきゃ止まるじゃない」。―――くー。なんでオマイはそんなにスポーツ観戦音痴なんだ(泣)。

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 【女子フィギュアスケート・SP】うーん。浅田真央さん(滑るのは初めて見たが、立ち姿が驚異的に美しい)は緊張でわずかに動作が揺れ、それでも大技を含め見事に滑ったが自己能力比 90 点という感じ。キムヨナさんは緊張してもまるで動じず同 98 点で恐れ入ったが、SP世界歴代最高点なんていわれるとそんなにすごかったかなと腑に落ちない。スケーティングはシャキシャキと切れがあり気持ちがいいが―――浅田さんはスピード感にやや欠けた―――、007 の振付なんて織田のチャップリンや子供紅白みたいな気恥ずかしさを感じるし、ジャンプを除けば技術は昔のミシェル・クワンのほうがより完璧で優美じゃなかったろうか。まあスピードスケートと同じで、日本が得意の分野で韓国に負けることが俺は悔しくて受け入れ難いだけかもしれないが(Hard to swallow)、ヨナさんにも浅田さんにも特に心を動かされることはなかった。

 お母さんが2日前に急死という悲劇にあったカナダのロシェットが、驚くべき完璧な滑りで3位。4位の安藤があまりぱっとせず―――目立つ失敗はないが内容がつまらなく、観客を静かにしてしまった―――、表彰台はこの3人でほぼ決まりとなる。しかし一番良かったのは 100% 以上を出し切り飛び滑りまくった、日系アメリカ人の長洲さんだったような気がする。

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 萌は日本が負けたといって声を上げ悔しがる。開催国カナダをも上回りかねない韓国のメダルラッシュが、最近目覚めているっぽい彼女の日本人アイデンティティになんとなく障っているのだろう。しかしそれは仕方がない、韓国も日本もカナダもみんな一生懸命なんだから、勝てないからと言って不平を言ってはイカンよ。

 萌はこないだ学校の作文に、ニンテンドーやポケモンを初めとするカナダで普及した日本製品の多さを書き連ね、だから日本はイントレスティングなのだと力説していた。うーん、なんか違うなあ。普及してるのがすごいんじゃなくて、なんでもいいものを作ってしまうところが面白いのだよ。しかしそんなことを説明しても、小学生にはまだわからない。

 浅田さんがヨナさんを逆転することはできないだろうが、こないだ高橋がそうしたように、フリーでは突き抜けて力を尽くした滑りをしてほしい。そして高橋がそうだったようにゴールドメダリストよりも胸を掴むものを見せてくれたなら、順位に関わらず萌も俺も喜べるだろう。

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