2010/07/30

日記「カナダの小学メンタリティ」

「ペットショップで寂しい思い」「サプライズ結婚パーティ」「キッズのしつけ」ほか。

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■10/07/14(水) □ ペットショップで寂しい思い
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 BRを送ったあと買い物に行こうとすると、萌がスーパーの横にあるペットショップに行きたいという。ティガーを失った悲しみをペットで補いたいが、ほとんど動かぬうちのイモリじゃなあと俺もぼんやり思っていたので行ってみる。

 しかしショップに入ると、猫を見るだけでもうどうにも悲しくなってしまう。仕方がないので俺は猫エリアから目を背け、ハムスターや鳥だけを見ていた。萌はドワーフハムスターが欲しいーとうめき声を上げる。しかしうちは皆ダストアレルギー性で、羽根や毛のある屋内ペットは難しい。珍しい野外猫だったティガーは、だからこそ理想的だったのだ。

 魚を見に行くと、前にはいなかった「エサ用ミノウ(小魚)$0.18」というのがいる。アカヒレとは違う薄赤がなかなかよい。金魚は2度トライして全滅したが、ミノウならばアカヒレの近親なので元気に暮らしてくれるだろうと、安い取引で申し訳ないと店員に謝りつつ5匹ゲット。$1.01。

 水合わせをし合流させてみると、アカヒレとは色だけではなく体型もぜんぜん違う。泳ぎも下手だしボディバランスも悪く、底砂や石のコケを延々と突っついて食べてるし、フンは長く垂れ下がっている。こりゃ金魚だな。アカヒレ近親というよりも金魚の近親だろう。まあ餌への反応はアカヒレにさほど劣らないので、金魚ほど弱くはないだろうと期待できるけど。


上方2匹が1cmの稚魚。
手前が赤メダカ的不詳魚4cm。
 そしてすでに十分大きく育っていた稚魚1cmx2匹(推定年齢6ヶ月)も隔離ネットからメイン水槽に合流させる。しばらく成魚4cmに追いかけられまずいかなと心配するも、親魚のほうがチェック後興味をなくすと無事なじみました。アカヒレは成魚同士ですごい喧嘩をすることがあるので心配してたのだが、大きいものが小さいものをいじめるといった性向はないようだ。

 小さくてもきれいな魚の形をした稚魚、ミノウの赤、まるまる太ったアカヒレの黒と、水槽を覗き込む楽しみが増している。

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 オグリキャップが亡くなったのか。あれほど感動させてくれた馬は他にいなかった。あの最後の有馬記念ほどの感動は、他のどんなスポーツでも味わったことがないかもしれない。

 高橋源一郎の Twit が見つかった。『オグリキャップが亡くなったそうです。ラストランの有馬記念からもう 20 年。日本競馬史上もっとも人気のあった馬でした。有馬記念での奇跡的な激走の後の競馬場の異様な雰囲気はよく覚えています。馬が勝つところを見て、あんなに人間が泣くのを見たのは最初で最後です。さようなら、オグリキャップ。』

 引退後北海道の牧場にオグリキャップを訪ね、お前には本当に世話になったよと柵越しに蹄に触ったのであった。お前のレースが見れるなら明日を楽しみに生きていけると思ったときもあった。さようなら、オグリキャップ。

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■10/07/18(日) □ サプライズ結婚パーティ
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 うちから先月引っ越したMK青年が、ハウスウォーミングパーティをやるから一族みんな来てくれとなにか妙にはしゃいでるのでさてはと思っていると、やはりパーティ中に公式立会人が来て突然の結婚発表&その場で手続きという段取りになっていた。こういう発表の仕方をして、サプラーイズとかいってるところが全くいつまで経ってもガキであると大人は全員どよーんとしていたが(※)、萌たちキッズは大喜びであった。まあともかく本人たちは幸せの絶頂であります。
(※)MKの父と弟は、「お前なんだよこの発表は、言ってくれれば俺はもっと立派なお祝いをしてやりたかったのによォ」とかなり怒っていた(汗)。


中央、私の横がうれしげな新郎。
ご成婚おめでとう
 お相手は中国深セン出身の温和な娘さんで、雑誌「ノンノ」を愛読するという日本の女子大生みたいなお方だ。俺は日本でも「ノンノ」を読むお嬢さんなど、80年代の大学のクラスでしか見たことがない。なにかと愚かな甥ですが、楽しくやってくだされ。俺がカナダに来たときマイクはまだひょろひょろした中学生だったが、恰幅がよくなっちゃったし、えらい年月が経ったものである。

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■10/07/19(月) □ カナダ人の夏の旅とは
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 うちの前で隣家のMTと久しぶりに顔を合わせたので、「ティガーの件を萌に伝え、しばらくみんなで泣いたよ」と話すと、「実際君らのほうがうちよりずっとティガーと仲よかったからなあ、わかるよ」と同情してくれた。まあほんと、その通りなんです。

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 清水国明のバイクツーリング番組東北編があった。いいなあ、日本の夏とバイク。山は麗しく、里は優しい。細くくねった道を移りゆく景色を楽しみつつとろとろと移動し、いいカーブがあったら全速に加速してその曲がり具合をおいしく味わい、どこにでも人が住み商店があるから疲れたら適当に止まってイカ焼きなどを買い、道端で食べる。最高だ。

 うちの近所3軒がこの夏こぞって、こないだうちも行きどうということもなく帰ってきたオカナガン湖に長期滞在していることを知り、あんなところがそこまで定番の旅先なのかと驚いたのだが、ああした殺風景な中をがーっと高速長距離移動し目的地で長期滞在するという旅は、ツーリングというよりエンデューロ、つまり耐久レースである。

 ああいう耐久レース的な旅はつまらんとMに話すと、カナダ人は日常・家・仕事・雑踏・ひと気から完全に切り離される旅を好むのだとのこと。そりゃなるほどねとは思うが、あそこまで延々と距離を稼がなくても日常なんて切り離せるだろう。やっぱりよくわからないのです。

 だいたい夏なのにみんな暑さを求めて内陸オカナガンに行くというのも妙な感覚なのだが、まあBCは涼を求めて旅するには高原気候すぎるんだよな。快適すぎて、避暑に行く必要がないのだ。

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■10/07/24(木) □ 昔夢に見たようなライト
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夢のキャンピングランタン
Energizer Weather Ready
 ハードウェアストアを久々にぶらついて、素晴らしいLEDライトを見つけてしまった。単3x4本で100時間! しかもランタンにもなり(45時間)、小さな豆球の常夜灯まで備わっている。夜になって試してみるとライト部は昔の単1x4本の防災ライトレベルの明るさがあり、ランタンにすればテント内で十分に本が読める照度がある。単3でこれはほんとに驚異的な明るさだ。

 停電の夜があっても、これが2つほどあれば家族全員ラクラクと読書やボードゲームで過ごせる。明るく電池が超長持ちというこれは、キャンプをしていたまさに昔に夢見たライトである。ついに技術はここまで来たかと感慨深い。

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■10/07/23(金) □ カナダの小学メンタリティ
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 スリープオーバー(お泊り)のAL家から帰りまだ興奮が残る萌が、日本語をまったく喋らず、俺への態度もぞんざいなのでカチンときて、「萌はもうまったくカナダの幼稚な小学生だな」と俺が言ってしまい、これで萌がアップセットしてしまった。萌にしてみれば友達と同じように振舞うと父親が嫌がるのだからかなわんことだろうと反省し、すまん私が悪かったとあとで謝った。

 萌のこの態度の何が嫌なのかと考えてみれば、結局「ハナモンタナ(ディズニーのティーン向け愚劣コメディ)」等のコピーになってるからなんだよな。「OH YEAH!!?? HOW ABOUT.....(そうかよ、じゃあこれはどうだ)!!」と早口で切り返し相手を言い負かすことがクールだという、このノースアメリカン幼稚性にどっぷりはまっているわけである。まことに不愉快ではあるがしかし、繰り返しになるが萌は友達と同じようにしてるだけなわけで、いちいち俺がトゲトゲしていてはやっていけない。

 萌には生まれ育った日本の子っぽい優しさは完全に備わっており、俺やMの指示に「はい」と答えるときの素直さには俺は軽い感動すら覚える。「Yeah」と「はい」とではやはり何かが違うのだ。「Yeah」は能動的で、OKわかったという気持ちと嫌だなあという反抗が両方含まれている。「はい」はよりフラットな、物事の道理にただ従うというナチュラルな美しさがある。言われたからやるのではなく、やるのが当たり前だからやるのだというナチュラルさ。まあこれが「はーい」だと、「Yeah」と同じになるけれど。

 萌からこれが失われることはないだろうから、俺としてはカンに触るところは注意する程度で適当に受け流していくしかないだろう。

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■10/07/24(土) □ ホワイトロック訪問
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 昨日の俺と萌のケンカを心配したMが、共同読書&日本メンタリティ養成用に萌がハマっている「ハリーポッター」日本語版をリッチモンドの日本書店で買い、ついでに日本食を買い込んでホワイトロックに行きBV家で誘って食べると突如宣言する。ハリーポッター本なぞいらんしBVのところに日本食など持って行っても喜ばれるわけもなし、豊富にアイデアが湧いてくるがハズレが多い FIFA のブラッター会長みたいなうちのお母さんである。

 ハリーポッター本なんかほんと必要ないので、日本書店にあった本の中から俺が子供のときに好きだった「ファーブル昆虫記(ルビ付き)」を購入しておく。萌は全然興味なさそうだが、あれは面白い本なので読めば楽しめるだろう。ファーブル(フランス人だった)はカナダじゃ誰も知らないとMがいうので驚いた。こういうものを全国民が知るほどに取り込んだ昔の日本人の知識欲はすごいよな、ほんと。

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 ホワイトロックは、BV家近辺は何の特徴もない金持ちハウスが立ち並ぶエリアなのだが(どの家も巨大で新しく、New Westminster のように見て美しい家などはない)、水辺は建っている家の作りからして平屋のリゾート風になっており、水着の人々がそぞろ歩き、ハワイとか湘南みたいで気持ちが浮き立ってくる。しかし水辺に出てみるとBCはどこも同じく遠浅の海藻ビーチで、泳げるような海ではない。みんな水着を着て肌を焼いてるだけなのかな。


カニを踏まぬよう気をつけて歩こう
 それでもお湯のように暖かな水の中を歩けば、カニがわらわらと逃げ惑い、潮がスーっと驚くほどの速さで流れていて気持ちがいい。15分ほど海中散歩を楽しんでいると、あれ岸が遠くなってないかと気づく。―――あ、潮が満ちているんだと大慌てで浅瀬を探り岸へ戻る。けっこう焦った。まあ最悪でもおしりが水に浸かるくらいのことではあるが、やっぱ海は気をつけないと怖いな。

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■10/07/28(水) □ キッズのしつけ
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BCの盛夏はこの日までだったかも
 ウォーターパークへ萌とAL姉弟を連れて行く。覚悟はしていたが姉弟が俺の言うことを聞いてくれず疲れる。MCなんかピクニックシートで休みつつ写真を撮っている俺に向かってガンガン水鉄砲を撃ってくる。荷物があるしカメラも持ってるんだやめろと大声で言ってもわからない。悪気はないのだが、興奮していると人に言われていることの意味が分からないようである。彼はもう7歳なのだが、まだ言語中枢と行動中枢が密接につながってないという感じなのかな。

 で帰って夕方萌が下のプレイルームでSPと遊んでいると、隣家の孫たちも加わってきた。みなまだ小さいので念のため俺も降りていって萌と共にケアをする。世の中はMC同様モノがわかってない子が多く、その扱いはまったく大変である。「人の話を聞け、人の顔を叩くな」レベルのことを大声で言わないとすぐケンカが始まり、泣く子が続出する。これがカナダ中産階級のスタンダードなのかもしれないが、こういう子らの親はちゃんと言葉を尽くして子供らに働きかけているんだろうかと疑問だ。ふー。

 今はダブルカルチャー問題でやや悩んでいるが、萌には小さい時からこんなベーシックなしつけで苦労したことがないので、やっぱ俺たちは恵まれた親なのだと痛感します。

2010/07/17

日記「老猫ティガーの行方」

「『アバター』の古さ」「どうして猫はいなくなるのか」ほか。

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■10/07/11(日) □ 老猫ティガーの行方
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 萌のパーティ後迎えに来てくれたペアレンツたちと話していて、前庭に大量のティガーの毛が散乱しているのをMが発見する。ああ。これはいかん......。実家である隣家に行って尋ねるとやはり帰っていないとのこと。コヨーテにやられた可能性が高いなと隣家のMTが言う。

 襲ってきたのがアライグマならば、ティガーが逃げながらも盛大に威嚇大声を上げるので俺が必ず気づくし、実際毎年数回襲われて怪我に至ったこともないのだが、コヨーテほど体格差があると声も出せないうちに事態が決してしまうのだろうか。なんてことだ。Mも俺も泣きそうになる。萌にはとてもこのことは知らせられない。彼女に見つからないうちに毛を片付ける。

 最近本当に年を取り階段がきつかったようで、この夏ティガーは定位置であるうちの2階デッキで寝ていなかった。夜もああして身を守るものがない下の草むらで寝ていて、それで災難に遭ったのかもしれない。なんてことだ。

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 WCの決勝が終わるとテントを乾して畳み、なにかティガーの手がかりがないかと自転車に乗って町内を回ってみる。もちろん何も見つからない。まあ何かが見つかったらそれはおそらく最悪な事態なわけだが、怪我をして動けずじっと路地裏でうずくまっているところを発見みたいな都合のいいことになっていてはくれまいかと必死に祈る。自分でも驚くほど動揺している。皆がティガーを心から愛していたのだ。


 窓から何度も、デッキに出て何度も、裏庭に回って何度もティガーの姿を探し、小さな声で呼んでみる。帰ってきてくれ。俺たちが外に出るたび、どんなときでも擦り寄ってきたティガーともう会えなくなるなんて、ほんとに信じられない。おととい暑い日に、うちの前でアスファルトにへたり込むあいつの写真を撮ったばかりだった。俺は打ちのめされている。普段ティガーとは遊ばないMも意外なほど落ち込んでいる。萌になんと話したらいいのかもわからない。

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■10/07/12(月) □「アバター」の古さ
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 風の強い日。庭で片付けをしていると、風の音がにゃあと聞こえて振り向いてしまう。隣家のALにも、萌にはこちらから機を見て話すので、当面何も言わないでほしいと伝えておく。萌がどれほどティガーをかわいがっていたかALも当然分かっており、「I know, of course」と思いやってくれていた。

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 夕方、Mが昨日のパーティ用に借りてきた「アバター」を見る。「こういう原住民をアメリカンヒーローが率いて悪と戦うって映画は、俺はもう何度見たかわからんよ。いくらなんでも今時どうなの?」とMにこぼすと彼女はそれはそうだけどと笑い、これは映像を楽しむものなのよという。しかし原住民の生活様態や儀式もあまりにも類型的な「白人が見た原住民社会」だし、英語を喋れる美しい酋長の娘っつーのからしてインディアン映画の昔から定番だよな。

 まあ水を泳ぐ映像なんかははっとするほどきれいだが、森はファイナルファンタジーその他の3Dゲームでゲーマーがすでに楽しんでいた仮想風景をハリウッドの金と人材で拡張したものだし、森との心の交信はナウシカの腐海+オームだし、飛行シーンも同ナウシカ、浮島はラピュタ、動物と共に戦うのはもののけ姫、飛行機に飛び乗り墜落させるのはコナンからの借用である。つまりインディアン映画+宮崎アニメですべてができていると言え(※)、何も新しいものはない。加えて動物や飛行機メカのデザインには、宮崎駿のような天才性が何も感じられない。デザイン学生が描いたたみたいなつまらないモンスターばかりが出てくる。
(※)「J・キャメロン監督、実は宮崎駿ファンだった!」という記事もやはりあった。

 3Dメガネをかけてみれば飛行シーンなど気持ちいいのだろうが、それは遊園地の乗り物の楽しさであって映像美ではない。これが映画表現の革新みたいに言われるところがまことにハリウッド過大評価世界である。俺は手描きアニメの緻密に描き込まれた絵を見ると絵が上手な人の才能を味わう喜びを強く感じるが、こういうCG映画を見ても Playstation 2 以上の感慨は湧いてこない。技術の発展で美しさではなくデータ量だけが増していく。「3Dゲームのすごいやつ」としか感じられないのである。


典型的北米アニメ:Phineas and Ferb
 最近はたまにしか読めないのでマンガでもこの、「絵を見る喜び」を痛感する。NHK「ゲゲゲの女房」にチラリと出てくる水木しげるの絵などにシビレるのだ。水木の描く線に反応できるようなマンガ素養がないアメリカカナダの作家がCG映像を作っても、いかんせんイメージの元となる「絵」が貧しいのだろう。なんせカナダじゃ一番人気の子供アニメが↑このレベルなんですから。喋りと歌は面白いが、この画力をなんといわんや........。

 ナウシカは戦争を止め、アシタカは止められず謝るのだが、この映画はべトナムとイラクでの米国の行為をあからさまに模し批判しながら、結局全面戦争へとすべてを駆り立てていく。これじゃ勝っても負けても多数の命と森が無茶苦茶ではないか。自国が戦場になったことがない国の人間には、その心地悪さがわからないのだろうか。

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■10/07/13(火) □ どうして猫はいなくなるのか
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 夕方、ついに萌にティガーのことを告げることになる。「あのさ、ティガーがさ、帰ってないんだって。もう3日」。これで萌はことを理解し、号泣してしまう。「何が起こったかわからないんだ」。「かなり年だったから、その時を悟って自分で身を隠したんだと思うわ」と、コヨーテの可能性は伏せMが話す。

 これは寝るまで止まらないだろうと思ったが、意外やしばらく号泣すると顔を上げ、「今頃ティガーはずっと入りたかったこの家の中に入れて、ああこういう家だったのかって思ってるかも。あ、天国で(日本で俺が昔飼っていた猫)チビちゃんと会ってるかも!」と涙をこぼしながら笑い出した。そうか。そうだね。子供は大人よりもはるかに立ち直りが早い。俺はもうティガーがいないんだといまだ一日中ため息をついているというのに。子供には取り返しの付かないことを嘆き繰り言を言うというような精神回路がないんだろうな。常に現在と未来を向いているのだろう。

 どうして猫は死ぬときにいなくなるのと聞かれると、俺にもMにもわからない。「体の異変や痛みに動転して、誰もいないところに身を隠し、やがてそのまま息絶える」という説に一番説得力を感じる。ティガーが怪我をしてどこかでじっとして、帰ってきてくれないかと俺はいつまでもいつまでも考えてしまう。「ティガーがもし帰ってきたら、私また泣いちゃうな」と萌はいう。まったくだ。その通りだよ。ティガー。

2010/07/12

日記「テントでお泊りパーティ」

「駒野、お前のために」「北米キッズカルチャー」「夏服を着た女たち」ほか。

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■10/07/02(金) □ ドゥンガ怒りすぎ
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 【ブラジル・オランダ】ロッベンをハンドルできないブラジルが、後半フラストレーションで自壊していった。監督ドゥンガの仕事はチームを落ち着かせ反攻することにあるのに、ファウルが取られるたびにチームで一番大仰に怒りを表しているのだから、チームがまともに戦えるわけがない。それにこのチームはやっぱ地味で、ベンチも含めスターが少なすぎた。

 しかしグループリーグ時カメルーンは絶不調だったしロッベンは怪我でいなかったのだから、ほんとこのWCの日本には神風が吹いていたとしか言いようがない。ロッベンがいたら、長友と大久保が退場になっていたであろう。

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■10/07/03(土) □ 駒野、お前のために
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 【ドイツ・アルゼンチン】最初の猛ラッシュでアルゼンチンのミスを呼びドイツが簡単に先制し、その後も攻められてはカウンターで、とうとう信じがたい大差をつけてしまう。相手がここまで強くなると個人の才覚だけで攻め守るアルゼンチンには手に負えなくなるようだ。

 ドイツはほんとに高性能フットボールマシーンである。全員がよく走り走ったところにボールが通り、見事な機能性の塊となって突き進む。サッカーファンは天才のきらめきがすべてを変えるみたいな奇跡を見たいと願っており(それこそ股抜きスルーの一発でド劣勢をひっくり返したマラドーナのように)、WCでだけえげつなく無駄に点をたくさん取るクローゼのような選手がフル活動するマシーンが敵をなぎ倒していくシーンはそんなに見たくはないのだが、このチームを止められるチームはもう南アにはいないだろう。

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 【パラグアイ・スペイン】バルデスが走る。打つ。駒野、お前のためにと叫びながら(夢想)。日本中がお前を応援しているぞ。パラグアイはほんとに頑張っている。いい試合です。

 バルデスの交代時、監督が「よく頑張った。駒野も健闘に喜んでおるぞ」と耳打ちし、奴はニヤリと笑いました。パラグアイが素晴らしいプレスサッカーでスペインを苦しめ、実に面白いゲームだった。パラグアイは日本とやったときはしょぼいチームだったが、まあうちとやったことでいろいろと学んだのであろう。素晴らしかった。日本はこんなにいいチームと互角にやったのである。気分よし。まあパラグアイにとっては似た戦術の日本より、がんがん攻めてくるスペインの方がプレスをかけボールを絡めとり戦いやすかったのだろうが。

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■10/07/05(月) □ 北米キッズカルチャー
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 久しぶりに晴れ気温がようやく20度を超える。気持ちいいので萌を誘い自転車でハイドクリーク沿いを走る。萌が昨日グランマのバスルームを掃除しお小遣いをもらったので、帰路そのお金でアカウントが切れていた Webkinz を買わせてやる。これでこの夏休み、インドア用の楽しみは足りるだろう。

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 「子供を食い物にし、貧困国の国家予算並みの金をロクでもない子供向けポップガラクタの消費に使わせている北米カルチャー」というドキュメンタリーをMが借りてきて、俺と萌もチラ見していると、萌がハマっているディズニーチャンネルの、あまりにも馬鹿なので俺が見るのを禁じた「スイートライフ」というショーがどんぴしゃで紹介されていて笑ってしまった。たかがコメディとはいえこうした子供向けショーは、「自己中でキツく子供らしさを否定する」という、大人が望まぬ子供性向のモデルとなっていると。その通りである。

 萌はここ1~2年くらい典型的カナダ小学高学年ガールへと変化しており、こうした番組ばかり見て TV Japan などまったく見なくなっている。NHK 中心の TVJ には10歳の子供が面白い番組などほとんどないというのもあるが、最初は気に入っていた「シャキーン」すら見なくなってしまったのにはがっかりしている。上記ショーでも解析されていたがカナダ(北米)の子供は、カラフルなものが画面上をダイナミックに動き「わーわー」「ぎゃーぎゃー」と早口で丁々発止をやるという高刺激番組を浴びるがごとく消費しており、それに比べ日本の番組はテンポがスローで静かすぎるのだろう。

 まあそんなくだらんものを見てはいても萌の優しく明るい性格に変わりはないのだが、早くもっといいものが分かるようになってもらいたいものである。音楽も最近は小学生向けポップ一辺倒だしなあ。ため息。

 ちなみに Webkinz もこのドキュメンタリーでポップガラクタ消費財に挙げられており、今日それを買った萌と買わせた俺は叱られました。

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■10/07/07(水) □ 夏服を着た女たち
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 【オランダ・ウルグアイ】このカードが決まった時点ではどちらかというと万年優勝候補のオランダ贔屓だったのだが、試合が始まるとオランダのサッカーがつまらないのでウルグアイに気持ちが傾く。オランダのうまい巨人たちが思いつめたような顔で高圧サッカーをやるのはなんか、しばらく前の愛されないドイツ代表みたいである。ブラジル戦同様ロッベンの被ファウルでこつこつ陣地を削っていくのも、相手が格下なのでつまらん感じがする。ロッベンは絶好調ならば抜けるのだろうが、抜けないから引っ掛けられ転んでるのだろう。全員が必死でカバーニとフォルランを走らせるウルグアイのほうが思い入れできる。

 後半ダッチの猛攻が来て、スナイデル、ロッベンと立て続けにゴール。あそこまで連続アタックが来るとどこのDFもたまらんだろう。この時間帯のダッチは強かった。ウルグアイの猛プレスをゴリゴリと交わし前に進み、3点取ってもまだ点を取りかねない勢いだった。

 しかしその後のウルグアイもこれまたすごかった。こんなもう完敗という状況でも、守備も反撃力もぜんぜん落ちないあの根性はなんでしょうか。恐れ入る。韓国にいったん押し込まれたりハンドがあったりでいいイメージはなかったのだが、このチームもほんとに素晴らしいチームだったな。

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 今日はついに真夏日となり、31度を超えた。萌は久々にMとSFUへ。カフェのTVでスペイン・ドイツ戦が放送され、得点シーンでものすごい大騒ぎになったと興奮して電話してきた。カナダじゃスペインがそれほど人気なのか。独製フットボールマシーンが起動せず、つまらない試合だったのだが。

 猛暑の中ふうふう言いながら買い出しに行くと、ほとんど水着という格好をしたガールズが町を歩き買い物をしている。眼福をありがとう君たちはほんとに素敵だとお礼を言いたくなって困る、夏服を着た女たち。

 今日は俺の誕生日、お祝いに何でも食べたいものを買ってきてやると妻子に言われ、よくよく考えてうちが普段全く行かないマクドナルドからビッグマックを買ってきてもらった。しかし日本のビッグマックと違いカナダのはバサバサなのである。がっくし。昔ジョニーロットンが「日本のビッグマックはなんでこんなにうまいんだ?」とインタビューで喋っていたが、これがその違いか。KFCも日本とカナダじゃ味つけも油も大違いだしなあ。カナダのケンタッキーは油と塩化ナトリウムがきつすぎて、うちの家族は誰も2本完食できないのです。

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■10/07/10(土) □ テントでお泊りパーティ
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水合戦用ウォーターバルーン
 ついに夏が来たので、夏待ちで延期していた萌のバースデイパーティを挙行する。キッズ7人を招き庭に張った3つのテントでスリープオーバーという超エキサイティングなイベントで、俺はもうここ3日、掃除と準備にかかりきりだった。朝は曇っていたが雲も切れ、気温も順調に上がってきた。水合戦用ウォーターバルーンを萌と作成しつつ、キッズの来訪を待つ。

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こないだまでうちに住んでたMK30歳、
水玉が尽きるとじょうろを使い
子供を追い回しています
 そしてウォーターファイトからパーティの幕開き。こういうことが心から好きなMK青年を呼んどいたので大盛り上がりの大水合戦となった。子供らが戦っている間に俺とMはバーベキューとサラダ類を準備し、テントの回りでディナーとマシュマロ焼き。パジャマに着替えて屋内に入りゲームその他。ボンバーマンは実に偉大なゲームで、初めてやったガールズでもすぐにルールがわかりバトルし盛り上がれる。


ディナーはお手軽ホットドッグ
 そしてケーキを食べプレゼントをもらいあとはフリーとここまでは絶好調だったのだが、このあたりから誰と誰がどのテントなのか、誰と誰は仲が悪く嫌がっているといった予定外の問題が生じてくる。萌と個々の子は当然仲がいいわけだが、ゲスト同士は必ずしもそうではないわけだ。


日本式スイカ割りも盛り上がりました
 望みのテントに入れず泣き出すものも数名現れ、友達を全員呼んでのスリープオーバーは萌の夢だったわけだが、本人もいろいろ仲介に苦労し泣いていた。結局2名は屋内で眠り、5名がテントで眠るという玉虫色の妥協で決着した模様。そういうガールズ政治は複雑すぎて私にはわからず(男子は1名だけだったので専用テントで問題なし)、もうお母さんに任せました。彼女は先生なので、やっぱり人を叱り動かす手際が違う。俺は子供らを叱りつけていると頭の中で「トカトントン」と聞こえてきてしまい、すっと語気が抜けてしまう。カナダの子供は主張が激しいので、そういう弱腰じゃ全然動いてくれないのである。

 ま、いったんテントに入ってしまえばあとはもう、どのテントもお喋りで大盛り上がりであった。うるさくて眠れん。

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■10/07/11(日) □ さよならWC2010
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 萌たちテント組は2時まで庭に張ったテントでゲラゲラと高笑いを続けて寝ず、7時からまた大騒ぎを始めた。Mも俺もぐったりである。お迎えを11時としたのが間違いだった、早く迎えに来てくれキッズのペアレンツ衆(泣)。

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 【WC決勝】ダッチは全員カード1枚分のフィジカルな当たりをあらかじめ戦力として勘定に入れたような泥臭い試合に持ち込み、力を尽くし手応えのある面白いゲームにしてくれた。スペインを応援してた人々はあのファウル攻撃に腹を立てただろうが、あれはファイトである。退場になったDFハイティンハなんか見た目からしてK1ファイターのような悪役顔だったが、本当にギリギリのところで守っていて感動させられた。独のようにタックルもせずスペインに自由にやらせるより、ファイトしてくれたほうが中立ファンにはずっと楽しいのである。ただ、大久保並みに守備をしていたカイトにもっと攻撃させてやりたかったな。

 Mが親友であるノバスコシアのダッチ一家に電話すると息子さんが出て、「俺たちはいつもこうなんだ。もう慣れっこだよ」と吐き捨てるように言ってたそうです(笑)。ともあれ終わった。さよならWC2010。観戦お疲れ様でした。

2010/07/05

日記「自分が出るワールドカップ(パラグアイ戦)」

「マラドーナ殿様」「憲剛システム時間不足」ほか。

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■10/06/27(日) □ マラドーナ殿様
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 【イングランド・ドイツ】英オールスター即席チーム VS 独製高性能フットボールマシンという感じ。1人1人の名声とポテンシャルでは英が上回っても、油の回りで大差が付いている。こんなに油が回らないチームを作るカペッロに10億払ってるのかと、ひと事ながら腹が立つ。いや世界中のサッカーファンがイングランドのこの黄金世代のサッカーを楽しみにしていたのだから、純粋にひと事ではないよな。失われた楽しみを返してくれカペッロ。

 2点取られたところでバカバカしくなって見るのをやめて魚の世話を始めると、セットプレイからDFが1点取る。あれだけスターがいながら点を取るのはDFのヘッドかと思い世話を続けていると、イングランドに火がついていて攻めまくり、ランパードがループでゴール、しかしリプレイではボール3個分も入ってるのに、誤審だらけのこのWCの白眉となりそうな誤審で取り消される。いくらなんでもこれほどの大きな誤審が、四半世紀前ならともかく現代のスポーツで見逃されるのはおかしいだろう。どちらにも見えるような際どい判断は主審に委ねるというのは当たり前のセンスだが、そういう範疇には収まらぬ馬鹿ばかしい誤審だった。

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 続く【アルゼンチン・メキシコ】も誤審で勝負の趨勢が決まってしまい、がっくりであった。アルゼンチンは文句なく強いが、メキシコも本当にみんなうまい。こういうのを見ると、日本の力が出るようになったとはいってもこの辺とは階級が違うと感じざるを得ない。破綻なく端正にパスをつなぐダッチやイングランド相手にならいい試合ができるが、こういううまくて走る国には今でもボコボコにされそうな気がする。中南米こわし。パラグアイこわし。

 マラドーナの横に有能そうな海千山千風コーチが2人寄り添い、「殿、ここはDFラインを2mほど下げてはどうかと」と囁き、マラドーナがバカ殿風に「ん? ああ、よきにはからえ」と答えているシーンがカメラで捉えられていた。素晴らしいカメラワークというか、マラドーナ専用カメラがあるんだよな、当然。最高。最後までずっと見ていたいチームだ。

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 今日オランダと背中に大書されたお父さんにおめでとうと声をかけ、「僕は日本人なんだよ」と続けると、「お前たちは明日だろ? グッドラック」とうれしいことをいってくれた。ここがグループリーグとは違う。ノックアウトラウンドになれば、他国の人々でもその出番を知っていてくれるのである。

 いよいよ明日。パラグアイがウルグアイ程度だったら完璧に勝負になるが、もっと強かったらどうしようとハラハラしてしまう。どうも南米勤勉チームには押し込まれるイメージが......。中盤のプレスに負けてポゼッションが落ちると疲労してキツイなあとか、ハラハラしとります。

 パラグアイに勝てるという根拠を読んでから寝たいのだけれど(カナダでの放送は明日早朝)、Twitterなどをサーチしてみてもこれといったつぶやきは見つからず。まあ仕方がない、寝ます。


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■10/06/29(火) □ 憲剛システム時間不足
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 【日本・パラグアイ】朝6時、スタメン発表。4試合連続同一、サプライズはなし。まあ「ここでサプライズをやるとトルシエになる」という話もあるしな。

 日本を常に格下に見るカナダCBCは、今回も当然パラグアイ優勢というムードで伝えている。ここまで3試合中2試合で予想を外しているのだよ君たちは。カメルーン戦はまあ俺も相手が悪すぎたというマグレ要素が強いと認めるが、デンマーク戦は完勝だったではないか。

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 【試合開始】最初のタッチでいきなり大久保が打つ。よし。いいぞ。プレスで押し込まれるイメージがあったのだが、パラグアイは割合キープ力が低く日本のプレスの方が効いている。やっぱり相手はアルゼンチンではないのだ。これまで通りに戦えば勝てる。本田のトップでのボールの受け方がうまくなっており、大久保と2人で攻撃への足がかりになっている。

 15分、パラグアイの保持時間が長いが向こうも技術がないので危険な攻撃にはならず、デッドなゲームが続く。日本はボールを持てばどんどん前へ進んでいるので、デッドなのは後ろでばかり回し仕掛けてこない(仕掛けるためのパス精度が足りない)パラグアイのせいである。

 20分、ゴール前のゴチャゴチャからスルーを流し込まれ、川島が止める。ふー。あれくらいはまだ大丈夫。力で崩されたわけではない。続いて松井のミドルがクロスバー直撃。よし。向こうは事故だがこっちは攻めている。これは日本の方が強い。

 27分、パラグアイも攻めてきた。CK時にわざと3人が団子になり密集を作ったりして、くんずほぐれずからフィジカルで押し込むといった事故をやはり狙っている。セコイ感じである。ボールを奪い返しキープせねばそのセコさを打ち破れない。頑張れ。このボールキープできなさはやっぱり相手の老練なプレスに今のところ絡め取られてるんだろうが、ボールを持てば日本は上がっているので、選手はさほど怖さを感じてないのだとは思うが。

 35分、本田がボールを引き出しFKを取る。本田の1トッププレイは素晴らしいレベルになっている。走っている場所もキープする強さも文句ない。すごい成長だな。いいプレイをしてもPKエリアははるか前方なのでシュートには持ち込めないが、それは1トップシステム自体の問題だ。FKはファーへ走った闘莉王へわずかに届かず。しかしよいプレーだった。

 38分、闘莉王が慎重に様子を見つつも攻撃に上がっている。パラグアイの攻撃は怖くはないのだ。松井のドリブルから本田のシュート、枠を切る! あれを入れてたらワールドクラスだったな。

 前半終了。イタリーが攻め切れなかったチームゆえ守備が堅いのは分かっていたが、別にプレスがハードなわけでもなく、攻撃力は想像以上にない。退屈なゲームだがペースを落としているのはボールを持ってる相手の方で、ガンガン打ち合う自信はないのだろう。競り合いからこぼれ球をフィジカルで押し込むといった得点が狙いだろうが、今の日本はジーコ時代と違ってブロック・アタック・カバーがソリッドに作動し、事故に非常に強い。

 日本は持ったら後ろ髪引かれずに攻め切る意識が高く、そしてゴールの近くまでは行けないがフィニッシュまではかなりの率で行けている。これは行ける。勝てる。間違いない。顔がにやけてくる。気分が盛り上がり日本のワールドカップ狂マザーに電話。精神安定剤を飲んで見てるそうです(笑)。これは勝てるよ、心配ない。

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 【後半】48分、阿部がカットからドリブルで上がるが、いいところまで行ったところでアイデアが浮かばずつぶされる。阿部ってほんとに攻撃では消極的な選手である。直後にパラグアイが1・2でPA内に入り込むも、シュートは打てず。あそこで神のような足技がない国で助かった。ようやくサッカーらしくなってきた。

 52分、双方ちょっとペースが落ちたかな。日本の脚がちょっと止まってきた感がある。松井や駒野のドリブルで前に運ぼうと努力するが、簡単に止められてしまう。松井のクライフターンでハーフチャンスが生まれ長友のシュート。長友が攻撃に上がれるくらい双方ペースの遅い、ゆるいゲームになってきた。90分で勝負をかけるなら早めのサブ投入だろうが、岡田監督はやらんだろうなー。

 55分、カウンターを食らい左からフリーのベニテスに打たれ中澤がブロック。あれはいかん。駒野は攻撃ではるか前方に上がっていた。何をやってるんだ。57分またもカウンターで駒野が裏を取られる。うーむ。おかしい。日本の脚が止まってるのだろうか。しかしこれだけ右サイドを破られても駒野はまだ上がって空振り気味のシュートを打っている。駒野は走力があるのでいいところでボールを受けやすく、アジアカップでもまるでプレーメーカーのようにたくさんボールに触っていたが、肝心のクロスが下手なのであまりいい攻撃につながることはないんだよな。むしろ彼は後ろをがっちり守り、長友を前に上げてもらいたい。なにかちぐはぐな感じがする。デンマーク戦のように、こういうモヤモヤな時間にセットプレイで点を取ってくれると助かるのだが。

 67分、完全に膠着。両者何も起こせない状態となってしまった。日パラのサポーターも座ってしまっている。負けているわけではないがこれはトルコ戦と同じだ。なにかを変えなければ負ける。サブを入れてくれ。―――岡崎が入る。走れオカザキ! 本田のスルーを岡崎が打ちブロックされる。お前はそうしてコツコツ裏を狙うしかない。

 80分、ついに憲剛投入!! 遅いよ監督。阿部に替えて。するとアンカーをやめ前を増やすのか。入るとすぐに前線で激しくボールを追う憲剛。AMFだ。よし! 

 闘莉王が憲剛にいいクサビを出し、左の長友に流しクロスというきれいな攻撃がさっそく出る。これだ。前に元気な奴がいると攻撃力が蘇る。あと8分、攻め切れるか延長か。クロスに飛び込んだ勇気ある大久保が痛むも立ち上がる。

 憲剛がヘッドでまたPKエリアの大久保に送る。フォーメーションが変わり大久保はこの時間攻撃に専念しているのかもしれない。いいぞ。87分憲剛ドリブル突破、キレている! これは憲剛が試合を決めて、「実はこれまでプロフェッサー岡田が秘密兵器を隠していたのだ」みたいな結果オーライ低能報道になると見た。しかし時間がない。岡田監督はいつも打つ手が遅い。

 そして時間はやはり足りず延長へ。最後は相手の脚が止まっていた。もう1人攻撃手を使える。森本を使いケリをつけるのだ。ここでストライカーに勝負させなくてどうするのだ。

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 【延長】冒頭から大久保がクレバーなプレイでボールを運び、憲剛がミドル、コーナーを取る。実にいい速攻。森本を見たいが大久保もまだキレキレで下げるのはもったいない。難しい。岡崎のヘッドがミートせず枠を外れる。しかしいいぞ、サブが活気を生んでいる。カウンターからバルデスがキープ、シュートにはならず。サンタクルスに替わりカルドーソ。エースを下げたと思ったらベンフィカのFWとは、地味なチームだがやはりWCは豪華である。

 7分、スルーをバルデスがうまくコントロールしスライディングシュート、川島がブロック。川島は試合を重ねるにつれどんどん落ち着き、今日は当たっているし完全に冷静だ。オランダ戦のあれがあったし、ここまでの3試合どこか挙動に危なっかしい雰囲気があったのだが、壁を乗り越えたのだろう。DFも落ち着いて常にシュートコースを切っており、この素晴らしい日本守備陣が点を取られる気がしない。俺の一番古いサッカー観戦記憶にあるWC90のアルゼンチンや94のイタリーを思い出させてくれる。攻撃されることが楽しいぜ。長友が張り切っていた割に相手FWとの1対1がほとんどなく目立たないのは、この組織守備ゆえだろう。

 ロングボールとフィジカルでポゼッションを取られ、せっかくフレッシュな憲剛がボールを触れない時間がじりじりと続く。どうにか奪って憲剛にボールを持たせてくれと願うも、何も起こらず延長前半終了。玉田が用意される。ボールに触れば天才だが年に一度くらいしか枠に行くシュートを打てない玉田よりは、ここまでゼロトップで何も起こせていないのだから、シュートが本職の森本をPKエリアで勝負させてほしかった。岡崎を左、本田を右に置けば森本をトップに置けるではないか。

 【延長後半】ときおりボールを持っても、日本は相手のプレスと疲れからかほとんどつなげなくなっている。4分、ようやくゴールキックから憲剛→長友→玉田→岡崎でハーフチャンスができる。長友はPKエリア付近で倒れる動きがあまりに軽く顔演技が際立ち、CBCのアナウンサーにさえファウルだと信じてもらえずにいる。もっとこらえてから転ばないと説得力がない。しかしやはり憲剛が持てば攻撃のスイッチが入る。ああして速い攻撃をすれば相手もしんどいはずなのだが、ピッチ全体ほぼ全員の脚が止まった膠着状態では、ボールも人も十分に動かずつなげないのかな。

 11分、本田ポスト→玉田がかっさらいラン→こぼれ球が岡崎→玉田にスルー→憲剛に折り返して通らず。くー。惜しい。サブ組はまだこうして脚力は残っているのだが、精度と頻度が......。そしてそれが最後のアタックであった。

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 ふー。仕方がない。よく1点も取られず頑張った。もう1回やれば憲剛をもっと早く投入しきっと勝てるけど、でもトルコ戦みたいなやり残し感はない。負けたのはお前のせいではない、泣くな駒野。

 この試合だけじゃなく4試合で持てるものは出し尽くし、出せなかったもの(大久保玉田の華麗なドリブルシュートとかとんとん)はたぶんポケットの中にもなかったのだというやり尽くし感が強く、思ったほど敗戦にはがっくりきていない。しかしここで先に進めれば次で憲剛をフル出場させることができたのにと思うと、強烈な悔しさが湧いてくる。憲剛が入りあれほど躍動した攻撃陣を見れば、あれをチームがもっとフレッシュな状態でぶつけていたらどうだったのだろうと思わずにいられない。3点のマージンがあったデンマーク戦後半で憲剛森本らの攻撃テストは十分に可能だったのに、試されないまま終わってしまった。ここで負けてもあきらめはつくけれど、内田や森本や稲本や今野を見たかった。

 「日本が守備的すぎて退屈だった」みたいな世界や日本の論調を見るとしかし、違うだろと悔しく思う。長時間ボールを持てたパラグアイにアイデアと技術と勇気が足りず仕掛けてこないから膠着し退屈な試合になったわけで、日本はボールを持ったら奪われるかフィニッシュするまで必ず攻めていたではないか(まあ奪われちゃだめなんだけど)。勇気が足りなかったとオシムも(むろん好意から)述べているけれど、このチームはアジアカップでのオシムジャパンよりずっと攻撃的だったよ。4戦を通してサブを十分に活用しなかった岡田監督はコンサバティブだったけれど、ピッチの選手はみんな本当に攻めていた。

 岡田監督は最後の4週間だけ水際立った仕事をし、この守備陣を作り完璧な心身のコンディションと戦闘態勢を整えたのは偉業としか言いようがないが、観念に縛られ2年半をトータリィ無駄にしネガティブな気持ちをサッカーファンに与え続け、WCでサブを使えるところまでチーム戦術を練り上げられなかったことには今でも納得がいかない。予選通過後にこの守備を作り攻撃を積み上げていけば、パラグアイに負けることはなかっただろう。

 これより強い日本代表も今後きっと生まれてくると思うが、初戦の相手が絶不調で、最強国のエースが怪我で不在、2番手のチームは年寄りで脚力なし、そしてベスト16でパラグアイのように弱い相手に当たるなんて、こんな神風吹きまくりのWCは今後なかなかないだろうと思う。パラグアイがベスト16で日本ほど弱い相手に当たるにも数十年かかったわけだしな。はあ。

 まあだがしかし、上に進むことよりも俺たち日本人サッカーファンは、とにかく日本の総力を合理的に振り絞る戦いが見たかったわけであり、それは果たされたのだ。お疲れ様でした。楽しかった。

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■10/06/30(水) □ 自分が出るワールドカップ
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 1日経って、いろんな人が日本代表のWCを総括してくれている。リアルタイムではわからなかったことが見えてきて、ネット時代はありがたいとしみじみと思う。紙メディア時代は競馬でどれほど素晴らしいレースがあっても、その感動を翌日文章で味わえるのは高橋源一郎の新聞コラムくらいだったもんな。
特筆すべきは、パラグアイというハードな相手と戦った日本代表が、激しいぶつかり合いにも一歩も引かず、逃げることなく対等に闘い続けたことだ。グループステージのカMーン戦では、うまく90分をマネージメントして無駄な動きをしない戦い方で勝点3をゲット。オランダ戦でも、先制ゴールを決められた後、攻めに行きながらも守りもきちんとケアして、失点を1にとどめるクレバーな戦いを繰り広げた。そして、世界のサッカー界の中でもハードなプレーで知られるパラグアイとも互角の「どつき合い」を演じたのだ。
(「日本代表のサッカーはアンチフットボールなのか?」後藤健生)
しかしW杯における日本は、ある程度パスがぶれても、ボールの受け手が「よっこらどっこいしょ」とボールを持ち直し、そこからまた攻撃の起点を作ることもできた。目指していた精巧さは落ちたかもしれない。せわしなさはまだ見受けられる。それでもようやく日本にも“サッカーの間合い”が生まれつつあるんじゃないかと思った。
(「日本に生まれつつある“サッカーの間合い”」中田徹)

 戦術解説はいつも納得の後藤さん。カナダの放送でもこういう解説がリアルタイムで出てくるとうれしいのだが。
できた中華料理も一応の体裁を整えていたが、守備面だけだった。アンカーに阿部を入れたのはいいが、攻撃に関してはフリーハンド。この戦術においてはシステマティックなカウンターが重要な武器だと思うのだが、結局それを練習する閑がなく、本田の素敵個人技に全てをゆだねることになってしまった。それでもなんとかしていた本田はすごいのだが。(「4年に1度見る夢」picture of player)
PK戦で次に進めないことが決まった直後、本当に悔しさを感じなかった。勝てるチャンスもあったのにチャンスを逃してしまったと感じていたけれど、それでも悔しさは感じなかった。なんだか、このチームの限界が垣間見えていた気がして。長友など選手が出場停止になって勝ち進んだ場合、別の選手が出てきて穴を埋めてくれるとは思いますが、それはあくまでスクランブル状態でチームの幅と言える総合力ではないのではないかと感じてしまう。(「サッカーのある幸せ」エルゲラ)

 俺の気持ちはこれらの人たちに近い。このパラグアイから点が取れないのだから、たとえPK戦で勝っても次にはもっと何もできないと思うと、負けてもどよーんという気持ちにはならなかったのである。むろん最後のPKまで勝ちを祈っていたが。そしてエルゲラさんとは違い俺は、遠藤の代わりに憲剛が入るチームをぜひ見てみたかったが。

 試合中は見ている方も実にいろいろなことを考える。俺はそれをノートに書き留め、同時に見ている友人にテキストで送り、Twitter に貼りつけつつ見ているわけである。代表チームのサッカーが楽しいのはそれが完全に自分のチームであって、出ているメンバーもサブのメンバーもほぼみな知っていることにある。ここで誰を出してくれよ、そいつじゃないだろう、あいつを連れてきていたらな、日本には誰みたいな選手がいない、このフォーメーションじゃ駄目だといくらでも考えが進む。これはCLなどを見ていても出てこない、WCに自国代表を送り込めた国民だけの楽しみなのである。この大会はまことに、自分が出るワールドカップだった。楽しかった。