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■11/10/24(月) □ それが教育の手柄か
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萌のバドミントン3回目。2時間を体育館でただ待つのはどうにもしんどいので、旧居候MKのところへ行き休んでいた。萌の宿題のことなど久々にいろいろ話したのだが、MKも中高の頃は宿題を出す学校が嫌で嫌で、自分の子供があれを経験するのかと思うと今から憂鬱だと言っていた。奴は俺同様無駄手間をとことん嫌う性格なので、あんな低能で時間がかかる宿題を出されたら、今の俺と同じく発狂する思いだったろうな。
今の算数の問題は「この答えを出せ」ではなく「この問題をどう解くか説明せよ」となっている。わかっていることとそれを説明することは全然別のスキルなので、説明の方に莫大な時間がかかるのである。こうしたほうが子供の理解が深化するのはわかるが、子供の時間と労力を犠牲にして理解を深化させるのが教師や教育の手柄となるのか、違うだろうと俺は言いたいわけだ。同等かより少ない時間と労力でより深く理解させたなら感謝するよ。だけどこんな課題や宿題のカサ増しで補うのは教える側の手抜きだろう。
俺がこうまくしたてるとMKは、教師が宿題に頼る原因として BC 州の教育予算=教師数の不足を挙げていた。なんでこんな発展する一方の BC で教育予算が不足するんだよ、おかしいじゃないかと聞くと、政府は経済に金をつぎ込んでおり、選挙結果から民衆もそれを後押ししているのだとのこと。あーそうかー。俺は選挙権がない。トホホである。
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でバドミントンの最後の 30 分を見にジムに戻ったのだが、萌は先週から全然進歩していなかった。がっくし。サーブも打てない初回からはさすがに伸びたものの、落ちてくるシャトルを体の横で捉えることは萌にとっては相当に難しいことらしい。
なにかいい練習方法はないかと考えてみるのだが、こうしてクラブで練習する以上のことが家でできるわけもなし。紐で天井からつるしたシャトルを打つみたいな細工も考えてみたのだが、放物線を描きゆっくりと落ちてくるからシャトルは子供でも打てるわけで、紐シャトルだと練習にならんような気がするのである。
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■11/10/26(水) □「カーネーション」の滋味
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萌とMは毎週水曜「アメリカズ・トップモデル」を見ている。ファッションカリスマがファッションモデルワナビーを訓戒を垂れるという図式が馬鹿馬鹿しくて、何が面白いのかさっぱりわからない。ファッションセンスがありかっこいいことに価値はもちろんあるが、それが何よりも重要であるという世界の価値観は俺にはわからない。たまたま俺が裏で見ていた「家族に乾杯」の高校生神楽のほうが、百倍優れた芸能だなと思った。
続く「カーネーション」なんか、ほとんど日本人にしかわからない滋味だけでできている物語だからユニバーサルな比較のしようがないが、俺から見れば千倍素晴らしい。今日はお父ちゃんが初めて糸子のためにいいことをしてくれた回だったのだが(糸子のミシン先生に頼み込み住み込みになってもらった)、もう 15 分のすべての瞬間が素晴らしかった。役者陣の表情、目線の動き、言葉に表れる時代的イノセンス、すべてが素晴らしい。
「おばあちゃん? ひょっとしてこの布団つこうた?」
「つこたよ」
「なにすんや? せっかく打ち直してもろたとこやのに! もう!」
―――このシーンなんか3回も見てしまったよ。なんという言葉の味わい深さ、滋味深さ。カナダの人は英国なまりに憧れているが、イントネーションと発音が違うだけで英カの言葉は同じである。日本の方言は言葉自体が違うんだから面白い。
このかしまし娘のおばあちゃんは、俺が子供のときうちに住み込みで働いていたおばちゃんにそっくりだ。彼女が動き笑っているのを見ると、涙腺が緩んできてしまう。
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■11/10/27(木) □ ゲームを巡るイマジネーション
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夜、珍しく萌の火急の宿題がなかったので、一緒に算数ドリルをした後、グレンモアを楽しんだ。早く寝かせなきゃいかんと急いでプレイしているのに、萌はネス湖の生贄になる村人を選ぶのに「お前が行けよ」「なに言ってんだよ、お前こそたまには村のために役に立ったらどうなんだ」とサイドストーリーを繰り広げ、面白いがゲームが終わらず困った。
勝負は 47-43 と僅差で萌の勝ち。するとネス湖のおかげで勝った萌が、「湖に身を捧げたジェイク・パトリック(架空の村人)のおかげだ。ジェイクのために旗を作る」とスコットランド風の旗を描き上げ、それでジェイクの遺骸コマをくるんでネス湖に流し、「ジェイクのためにアンセムを歌います」とパフュームの「ボイス」を歌い踊り始めたので、もういいから寝ろよと寝かせました。
ほんとにボードゲームは、久しく眠っていた子供のイマジネーションを炸裂させてくれるなー。グレンモアは立派なボードがついたゲームと違い、それほどオーセンティックな村づくりムードを持っているゲームじゃないんだけど、城とか牧場とか酒場というキーワードだけで十分に夢が広がるみたい。萌にドラクエを初めてやらせたときに、ちっとも冒険に行かず村で買い物とかばかりして油を売ってたのに似ている。やっぱり「村の世界」にいること自体が気持ちいいんだろう。
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■11/10/29(土) □ グレンモアの攻防本格化
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朝イチで萌がグレンモアコール。このゲームが素晴らしかった。萌が資源タイルをうまく長方形に並べ、アクティベートを順々にかけ、肉屋を2軒並べて一気に8点取るなど、人の村ながら胸が浮き立つほどの順調な発展ぶり。Loch Ness と Iona Abbey も取り、最後までまったく無駄なくプレイして72点という素晴らしいスコアで大勝。俺のアドバイスはあったが、ズルは一切なしでの点数なので本物だ。子供でもアドバイスさえあればこんなにいいプレイができるんだから、ドイツゲームは本当に素晴らしい。
萌は実際うまいな、このゲーム。こういうプランニング&オーガナイジングが好きだし得意なんだろう。
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次のゲームでは俺が逆に肉屋作戦を決行し、シープ2枚→ウール工場&カウ1枚→精肉店を一気にアクティベートできるよう1箇所に集約した史上最大の肉屋工業団地が見事に完成し、ガッコンガッコンと蒸気を上げポイントを生み始めた。こいつはすごい。パズー、石炭をどんどん燃やせ。俺は R2 の途中で早くも 30 点に達してしまったが、萌はいつになくタイル配置が悪く、生産拠点がバラけていて資源がまとまって出ず村の経済が停滞している。
そしてああこれじゃ負けると萌が動揺し始めたので、俺の肉屋団地の稼働具合をちと緩め(ちょうどシープタイルが内陸になり生産量も落ちていた)、萌のヘルプをすることにする。「ウイスキーは今から作っても5個にならず点は低いから、もうウイスキー点はあきらめ、樽を使い酒場を開けばいい」とアドバイスし、2軒並びの酒場ができる。これだけで6点を数回出せる。ここから萌が Loch Ness と Iona Abbey と小市場と酒場をうまく組み合わせ、ガンガンポイントを取り追い上げてきた。
うわこりゃいかんと思うが俺は後半用のこれといった得点産出ポイントを用意してなく、その間に萌が俺を抜き、俺がブリッジで再度抜き返したものの、城ボーナスを精算してみると Loch Morar と Iona Abbey で萌の勝ち! 萌は Yahoo! と大喜びし、走ってメルに報告しに行く。いやー、負けたが面白いゲームだった :-)。こうしてちょっと手加減しつつギリギリの勝負に持ち込み、勝ったり負けたりという勝負をしていきたい。
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■11/10/30(日) □ モテキ・あまりにも微妙な日本の恋の味
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とある方から譲ってもらった「モテキ」全4巻を読了。フジのズルズル駄目オトコっぷりは実に身につまされ面白かった。これほどのモテキは自分の経験にはないけどそういうことはありえないことではなかったし、彼の絶望ほど頻度深度は深くないが同じテーストの出来事はもちろんあった。これを女性が書いたというのもイイ。しかしこんなのはたとえばカナダの人には1つもわかってもらえないんじゃないかと思う(笑)。あまりにも微妙な、たまらない日本の恋の味。
マンガは最高だ。最高と言うか最強ではないか。フジが女性との対立から撤収したい気分に満たされていくところ、矢が突き刺さり落ち武者となっていくところ、マンガ家オム先生が締め切り土壇場であんな姿になってしまうなんて描写が、他にどう表現できるのかとゆーことである。3D 映画どころじゃない表現の豊かさだよな。絵を描ける人は本当にうらやましい。楽器を弾けるより楽しいんではないだろうか。
しかし昔コミックスを何冊も買っていた少女マンガ家のお宅を訪問させていただいたことがあるのだが、オム先生のところみたいなあんな不潔でも修羅場でもなくてよかったでした。
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■11/10/31(月) □ 終わりかけのハロウィーン
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ハロウィーン。何もアイデアが浮かばなかった萌はようやく「ヒッピー」というテーマを決め、70年代風ロングヘアーのカツラだけ買ってきたのだが、うちに元ヒッピーだったというおばあちゃんの妹のドレスがあった。完璧である。萌はカツラを買ってきてから、何度もかぶって鏡を見ている。自分がロングヘアだった頃を懐かしんでるに違いない。頑張って早く毛を伸ばせ。
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ハロウィーンの来訪キッズは8時15分でもう終了、うちに来た子供はわずか35人、これまでで一番少なかったと思う。萌とSPも意外に早く帰宅。なんかえらく静かなハロウィーンだった。学校で萌をピックアップするときに気がついたのだが、小学校までは 100% コスチューム着用だったけど、中学になるとコスチュームを着てない子も多い。だんだん卒業していくんだな。うちのブロックは住宅地としての世代的に、萌よりやや年上くらいの子が増え、ハロウィーン世代が減ってきているんだろうと思う。萌はあと何回これをやるだろう。
ハロウィーンが終わってちょっと物足りない気分が俺にも萌にもあったので、ホットミルクで体を温めてからそこらじゅうで打ち上がっている花火を見に夜の散歩をした。カナダじゃお祭りの花火はしょぼいのに、日本では手に入るわけがない壮絶な火力の花火を一般人がドッカンドッカン打ち上げている。うわーすげーと笑いながら、懐中電灯を手に夜の町を駆けまわる。おそらく北米大陸中の町が今夜、花火の煙に包まれているんだろう。
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■11/11/01(火) □ フジ君とヴェルレーヌ
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想いが伝わらぬことを嘆く人たちに向けて、こういうツイートを流してみた。
若者が愛や哀しみをシャウトしたい気持ちは完全に当たり前だ。でもシャウト自体は分かち合えないものだから、表通りの人の心には届かない。通りがかりの人にも届くものになればいい。それが歌なんです(C)加川良「下宿屋」「モテキ」のただ中にいて苦しむ若者たち。フジ君たち。君たちが苦しいのは単純ではなく複雑な組成の心を持って生まれてしまったからで、どうしようもない。仕方がないからせめて床に叩きつけた気持ちを紡ぎ直して歌を作れ、詩を書け。そういうことを言いたいのである。―――あ、単純と複雑で思い出した。ヴェルレーヌだ。
僕の単純さがまるっきりあなたには解らなかった可哀相な僕の乙女妻よ! そしてあなたは去ってしまった腹立ちまぎれに、気まぐれに。(乙女妻)
その女ひとは僕を理解し、その女にだけ僕の心は透明です。その女にだけ僕の心は不可解ではなくなります。僕の青ざめた額の脂汗も その女にだけが涙で清め得るのです。(よく見る夢)
(「乱鳥の書きなぐり-ヴェルレーヌ・よく見る夢」)
フジはヴェルレーヌなのだ。行状はだいぶ違うがその叫びにおいて同質だ。君たちの組成は複雑だけど届かない叫びは単純なのだ。この詩をフジが書いたとしてもまったく不思議ではない。19 世紀の詩人と同じように、今も若者たちは吠え続けている。君たちフジ君はみんな歌を作り、詩を書いたほうがいい。
水に削られて、いつも傾いて
満たされることのない
俺たちは2つの舟だ
舳先を並べながら、川を下っていく
伸ばす指は届いても、水を隔てている
抱きしめて横になり、花のように沈んでく
言葉のない草になり、すれあって笑ってる
友達が歌ってる 声がする 聞こえてる
夢の中でも 同じ言葉 いい子だね いい子だね
東京でフジ君状態だったとき、俺もヴェルレーヌを読み、ジャックスを聴き、歌を作った。この年になっても、あの頃と何も変わらない。伝わらない悲しみはいつだってある。だから毎日何かを書いているのだ。
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