(特にネタバレはないです)
6月28日
サカタ@カナダ@tomosakata
奥様がどこからか評判を聞きつけて来て、「
火花 - Spark」の1話を家族で見た。1話は又吉青年の日常をカメラが追う感じでストーリーも特になく、ただ写る日本の風景にみなであーとなつかしさのうめき声をあげる。字幕が非常に読みにくい。漫才のネタをうまく英訳できてもいなかったが、あまり面白くない漫才だというのは伝わってた(笑)。
Netflix
「火花」1話はまだそんなに面白くなく、ただ映像(日本の日常風景)と音楽がとてもいい。奥様は花火大会の案内嬢の声に、「イベント案内は日本中必ずあの同じ女の子の声よね」と笑っていた。駅のアナウンスもいつも同じ人だよねと娘。
6月29日
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火花 第二話、物語がようやくゴトンと動き出す。いい感じになってきた。娘はスローな展開にややじれているのだが、「東京に住みたいな」と言い出した。絵がいいんだよね。あの夢見る若者たちが暮らす吉祥寺や中央沿線のゆるい都会風景が、暮らしてみたいと思わせるのだろう。俺も今でも思うもん。
見てる途中で奥様がポーズして、「日本の若者はカナダの若者より生き易いのではないか」などという議論を始めた。主人公のプライドの持ちどころが北米の青少年とは違うと。控えめ・謙虚・先輩リスペクトがカッコ悪くないのは日本のいいところだと。なるほど。
主人公林遣都くん大好評です。
去年日本に行った時に、TVで活躍し本屋にも写真があふれている又吉を娘は日本のコメディアンとして唯一認識し気に入っていたので、このドラマの主人公があの又吉だとわかり喜んでいる。控えめ・謙虚・先輩リスペクトがいいよね。
6月30日
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火花 第三話。この話のテーマはいつ主人公徳永が面白くなるか、つまり覚醒だなと皆で笑う。だって漫才が面白くなってこないんだもん(笑)。クレイジーな師匠との絡みも笑いどころが不明なのだが、門脇麦ちゃんが出てきてそこは一気にいい感じになってきた。
井の頭のアパートに住み、やりたいことをやってしがみつくように東京でバイト暮らしというのは俺のバンド人生と完全に同じなので、このドラマを見ているといろいろと思い出話が出てくる。それを話すと娘と奥様が目を輝かせて聞いてくれる。ウケないライブのあとの気持ちとか、いくらでも話せるんだよな。
ドラマ #
火花 は主人公たちにいわく言いがたい妙味があって楽しいが、漫才師という題材は外国人にはわかりにくい。字幕では Manzai artistと訳されており、日本ではミュージシャンと並ぶほどのポップスターなのだと家族に説明しながら見ているが、肝心の漫才が序盤まったく面白くない設定なので人気を説明しにくい(笑)。
7月2日
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火花 第四話。
徳永の面白さがじわじわと広がっていく。何かの火花がすぐそこまでやってきている。これまででベストの回。面白くなってきた。途中で止めて、「徳永(又吉)は今でもこんな感じで、ギャグを言ったりするわけではなくそこにいるとなんだか面白いという人なのだ」と家族に説明した。
「去年の夏日本にいた時、芸人が短編映画を作り一般外国人に見せてどれが面白いか選んでもらうという番組があって、それで勝ったのが彼だったんだよ」というと、奥様もそれを覚えていた。「あー! 血だらけのシャツのやつ?」。そうそう。あれが徳永(又吉)だったのだよ。
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火花 には「まれ」の高志が出てくる。吉祥寺の街角にギターケースを置いて歌う彼と主人公との交流がある。高志の歌は音楽というには原始的すぎるが『見てくださいとこれがぼくという鉛筆の芯なんです』みたいな直球なので、字幕の歌詞とともに英語視聴者にも伝わるものがあるなと思った。
この物語全体が鉛筆の芯みたいな話で、
徳永の木の軸が少しずつガリガリと削られ芯が顔を覗かせている。そこがとてもスリリングなのだ。
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火花 の映像はとても美しい。気弱で視線泳ぐ徳永の視界に呼応するのか被写界深度が浅く、幻想的。娘もカメラワークが特徴的だと気がついて、「カメラが長回しで人物たちと歩くのがいい」と言っていた。四話で
いとしこいしの漫才から連なるシーンは、ぞくぞくするほど美しかった。
7月7日
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火花 五話オーディション、
六話単独ライブ。この物語に神谷がいなければ普通に感動的な徳永のサクセスストーリーとなりそうなのに、いつも二人の禅問答に戻ってしまい俺たちは??となる。なので神谷とはいつか何かを徳永に起こす啓示的な存在なのだろうと思っていた。
しかしこのあたりで
徳永つまり又吉はわけもなく神谷が好きで、それを描きたかったのだろうと思えてきた。記憶に残るシーンを淡々と描いているんだろう。楽しい記憶も、当人にしか笑えない記憶も、切なさが伝わる記憶もある。そう思うと俺の肩の力が抜け、徳永だけでなく神谷も少し好きになってきた。
いま五話を見返していると娘がやってきて一緒に見始めた。「よく意味わかんないよねこのストーリー」というと、「だけどそこがいい」と言ってました。出てる人がみなかわいいしね。事務所女性(徒歩7分のあの人)が特にいい。この3人最高。
7月12日
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火花 7話。オンエアバトルとは何かを家族に説明しつつ見る。娘は途中で映像を止め「緊張する」と笑う。全員この回には唸りました。神谷への愛とリスペクトが俺の中にも育っていく。音楽がいいなあ、オカモトズなんだテーマソングは。オープニング曲も誰なのか知りたい。
ふと気がつくと、今日本語TVドラマは真田丸と朝ドラしか見ていない。なにか日本ドラマの谷間の時期なんだろうか。数日おきにみんなで「
火花」を楽しんでいるけれど。娘は #
火花 を見ると「日本へ帰りたくなる」と郷愁をつよく訴える。カナダ育ちの彼女をもそんな気持ちにする映像なんだよね。
7月17日
#火花 8話。人気者の世界へと泳ぎ出していく徳永と神谷が遠くなっていくというか、分かれていくに決まっている二つの河を無理に交差させようとするような哀しみが描かれる。徳永の表情だけを写した何分にも渡る長回しに、耐え切れず奥様がうめき声を上げた。つらい。
7月31日
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火花 9話。見終わると神谷のような性格の奥様が、「このままだとダウナーやんけ。次見るでー」という。いやちょっと(笑)。俺は徳永みたいな弱々野郎なので、1回1回じっくり消化したい。でないと次を見れない。次は最終回なわけだし。切なし。
オープニングでよくかかるスローなG/C(Am?)曲のインスト版がかかった。ということはこのドラマのオリジナル曲だとクレジットを止め調べた。
I See Reflections in Your Eyes 木戸やすひろ。このドラマの映像とセンチメントにピタリと合った、すばらしい曲だ。
8月29日
俺が長年暮らした井の頭が思いっきり出てきたNetflixドラマ #
火花 は、最終回だけを残して見るのをひと月中断している。あれを見るとすごく心が揺れるので、心身ともに整った状態で見たいというか。
9月1日
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火花 10話。ついに今宵、家族全員で満を持して最終回を見る。この回のスパークスの漫才は、字幕を通して味わう奥様をも感動させるデキだった。初期のぎこちなく面白くないやつからこの至高の一本まで、彼らはManzai Artist(漫才師の字幕訳)として見る者の気持ちを揺さぶってくれた。
そして今回も徳永が神谷に、「なにしてんねん」と呆れつぶやく。字幕にWhat are you doingと出る。そうとしか言いようがない神谷という男。
神谷を見つめる徳永の顔に、あの美しいテーマソングが静かに流れる。「この歌、とても好き」と奥様と娘がつぶやいた。初回冒頭から記憶に残るベルベット・アンダーグラウンドのような劇中曲、I See Reflections in Your Eyes。「なぜだか分からない。俺はまたやりすぎちまった」という、神谷の独白のような歌詞。
全体を通して、ジョン・レノン「ダブル・ファンタジー」みたいなドラマだった。神谷はあのアルバムのヨーコの曲みたいな存在である。神谷ヨーコは理解に苦しむが、ジョン徳永の神谷への想いはとても美しく詩的で、心揺さぶられる。それが夜空に光る火花、スパーク。